いつものように、僕は家への行き先を告げて、いつものように窓の外に視線を移した。
「綺麗な言葉をつかいますね。」
何のことだか分からなかった。別に、丁寧なわけでもなく普通の言葉使いだったし、中身もいつもと同じだったが、運転手の心にはなにかが響いたようだった。
タクシーの運転手は今月の 7日に 71歳になったという。
「今日は、25人って決めてたから、お客さんで終わりだ。最後に、良いお客さんも乗ったし、帰ってバタンキューだ。」
その日、僕は少しだけ嬉しい気分で、車を降りた。
それから、もう何年経っただろう。彼は、まだ走っているだろうか。