タイミング

あるデザイン系のプライベートセミナーに行って、ハッとすることを教わった。

良いデザインのために大切なことは、そのデザイン自体が優れていることはもちろん大事だが、一番大事なのはタイミングだ、ということ。

これは驚いた。優れたデザインというのは、普遍性があるものだと思っていたし、良いものというのは単に時を超えてよいはずだと思っていたからだ。


同じように、良い文章もタイミングが大事だと言われた。タイミング、そうだな。

何かが心に届くか、届かないか。受け取れるか、受け取れないか。それは、タイミングなのだ。

ニセコルール

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ニセコの魅力は、一定の厳しいルールがあって、あとは極力規制が無いこと。日本のスキー場にしては珍しく、「ほんとにここがコースなの?」というような場所(森の中、雪崩の心配のない無圧雪の急斜面等)も、滑走可能。その代わり、立ち入り禁止の場所は本気で危なくて、入っているのを発見されたら、リフト券は没収だ。ニセコの山は日本で最も雪崩が多い山で、立ち入り禁止区域を遠くから眺めると、今にも崩れそうな雪庇が連なっているのが見える。
さて写真を見ると、スキーヤーの間を圧雪車が通っている。ニセコユナイテッドの一番南側に位置する、ニセコアンヌプリスキー場のナイターで驚くのが、この「人をコースに入れながらの圧雪」。普通、圧雪車(スキー場のゲレンデが平らなのは、圧雪車と呼ばれる特殊な機械で整地するからだ)が作業をする時には、コースから一旦人を出すものだが、ここは違う。
ゴミ収集車のような、あるいは、灯油売りの車のような、ファンシーなオルゴール音を響かせながら(「キンコンカンコン♪」)、4台の巨大な圧雪車が粛々とゲレンデを登っていくのだ。スキーヤーの間をぬって。圧雪車というのは、相当でかい(小さな家ぐらいある)ので、これが4台連なって迫ってくると、相当怖い。まあ、速度はゆっくりだから、巻き込まれることはまずないが、もし当たったらオシマイなことはよく分かる。
でも、こういう甘やかさないというか、大人なんだから圧雪車はよけて滑れ、みたいな割り切りというか、そういうのは好き。なんといっても、4台が順番に圧雪したあとの斜面は、レアチーズケーキの表面のようになめらかで、誰もシュプールをつけていないその場所を滑るのは最高。

冬の密度

Photo: 窓と雪 2006. Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX
Photo: “窓と雪” 2006. Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX

東京は暖かい日が何日か続き、街の匂いに春の成分が混じる季節になったが、ニセコは完全に冬だった。


楽天トラベルで安易に選んだ(焼蟹と白老牛の夕食がキーワード)宿だったが、比羅夫あたりの雑然としたペンション街から遠く離れ、昆布温泉(なんて良い名前!)の近くにぽつんと、良い感じに建っていた。

きちんと整理されたロビーは良い印象で、僕が懸念した「でかい木の切り株」や「ビニールのかかった剥製」、あるいは、「お客のポラロイド写真を貼ったコルクボード」の類は無かった。というか、ごくごく、趣味の良いホテルだったのだ。


建物は、流石北海道できちんと断熱されていて、下手に東京のオフィスなどよりも、よほど暖かい。

部屋から眺める林は、数分ごとに大きく表情を変える。時折突風が吹くと、枝の上の雪が、白銀の煙のように舞い上がり、何も見えなくなる。そして、雲が晴れ、一瞬だけ青空が覗く。

その日、落ちた雪も、夜のうちにまた、どっさり枝の上に積る。それが繰り返され、だんだんに量が減っていき、ついに春が来るのだろうと、知ってはいるが、それはまだ遠い先のことに思えた。


「坂一つ上がっただけで、天気が変わりますからね」

確かに。酒でも買いに行くかと、宿から 5分ぐらいの酒屋(その宿の近くにある、唯一の商店)に、のんきに出かけたら、遭難しそうになった。北海道は、冬の密度が違う。