香港特別行政新宿区

Seven Eleven
Photo: “Seven Eleven” 2011. Kowloon Peninsula, Hong Kong, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)

香港の中心部は、日付が変わってからも、女性も歩けるくらい、治安が良い。終電間際の地下鉄に、若い女性が一人で乗っているのもよく見たし、深夜の地下道を歩く人たちも、さほど緊張感を持っているように見えなかった。

ただ、通りから通りへ、ブロックを移るだけで表情を変える町並みは、時に緊張感を強いる濃い裏通りがあったり、ギラギラした香港的ブランド店が並んだり、色とりどりだった。


細かい通りを、行き当たりばったりに通り抜けて、今居る場所もよく分からなくなった。心地よい彷徨い感の末に、路面のアイリッシュパブに腰を落ち着けた。やけに貧相なピーナッツを割りながら、ヒューガルデンとギネスを飲む。

目の前にはセブンの見慣れたサインがあり、狭い道をパトカーがサイレンで威圧しながら、あるいはAMGのメルセデスが横柄にクラクションを鳴らしながら通った。そんな光景を呆然と見ていると、同行の一人が

「新宿区ですね」

と言い切った。そう、香港の中心街を何かと比較した場合、その対象として東京というくくりをすると異なる国だ。が、そのブロックからブロックへの多様性、治安のレベル感、無国籍でエッジな風俗、そういう事を一言で、我々の理解可能なものに置き換えるとすると「新宿区」なのだ。

なるほど、この瞬間の空気とこの景色は、とても僕たちの日常に近い。

アンコウ鍋

sea devil hot pot
Photo: "sea devil hot pot" 2011. Tokyo, Ricoh GR DIGITAL III, GR LENS F1.9/28.

都心から地下鉄で少し、駅の階段を登るとすぐ国道が通っている。商店街も何も無いそんな道沿いに、古くからの鮨屋が一軒。

引き戸を開けると、カウンターはもうお客で一杯だ。座敷でビールを飲みながら、集合まで少し待つ。去年のアンコウ鍋会では、やや熱燗をがぶ飲みし、お会計もだいぶ大変な事になった様であり、今年はもう少しじっくり鍋を頂こうという感じ。


丸一匹分?だろうか。とんでもない量のアンコウが、野菜も控えめに大皿に盛られてくる。良く行く居酒屋の料理番が、今日は客の一人として、鍋奉行をしてくれる。

「料理人の手だから、そのまんま手づかみでいいわよね」

と、鍋にリズム良く具を入れていく。それが、妙に説得力があるのだ。


アンコウの身を山と鍋に入れて、とどめに、かぶせるように肝をどっさり載せる。もう、下の野菜も身も見えない。
あとは、グツグツ肝が煮融けるのを待つばかり。

・・・ネットは広大だわ。

Victoria Peak
Photo: "Victoria Peak" 2011. Hong Kong Island, Ricoh GR DIGITAL III, GR LENS F1.9/28.

ビクトリアピークに向かうトラムは、ちょっと意外なほどの急勾配をガタガタと登っていく。香港 = $1,000,000 の夜景 = Victoria Peak という公式は、当然すり込まれており、忠実にここまでやって来た。

トラムを降り、延々とエスカレーターを乗り継いでたどり着いた展望台は、ライトアップショウの時間を前にして、もの凄い混雑になっている。Peak とは言っても、展望台にのぼらないと、あんまり何も見えないのか。


毎晩 8時から行われるライトアップショウは、それでも連日なんとなく見ていると、そんなにたいしたものでもなく思える。さっさとショウが終わらないかと待っていると、やがて、展望台は空き始めた。

さて、噂の夜景は僕の世界ガッカリ観光地にランクインするのか、それとも素直に凄いのか。


そして、手すりから乗り出して眺めたその光景は、まさに攻殻機動隊 Ghost In The Shell のラストシーン、少女の義体に移植された草薙素子が「・・・ネットは広大だわ。」と呟く最後のカットの、あの世界。

そうか、ここからの景色だったのか、と、突然繋がった感じ。