2025年8月の記事一覧(全 3件)

船橋、鯵フライ・リベンジ

Photo: “Mix fried fish set meal (Aji fry teishoku).” 2025.
Photo: “Mix fried fish set meal (Aji fry teishoku).” 2025. Chiba, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

乗り換えで電車の向きを間違い、1駅分反対方面の駅で降りた。土地勘が全くないところに連れて行かれるのは面白い。せっかくなので、間違えた駅で昼にしようと思う。見知らぬ街を空腹で彷徨うのは絶対に避けたい。惨めな気分になるし、ミスをする、見過ごす。今日も懲りずにGPTにお勧めを聞いてみる。また「食堂」を出してくる。しかし、今度は市場の中にあるらしい。市場に至る道を駅から歩く。巨大な市営団地が解体され、更地にされつつあり、防音シートの壁で作られた回廊を歩いて行く。昭和が更地になって、新しい時代が建設されていく。

Photo: “Under construction.”
Photo: “Under construction.” 2025. Chiba, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

日曜日で市場は閑散としていて、その「食堂」だけが店を開けていた。表面が擦れて色落ちした合板のカウンターに、丸椅子、古いが清潔な厨房。今日も、フライにしてみる。さしずめ、昨日のリベンジ。よく研かれた冷蔵庫から大将が出してきたのは、衣を付ける前の下ごしらえされた鯵、鰤、烏賊、帆立、そして牡蠣。これなら、間違いがない。そして間違いないフライの定食が出てきた。味噌汁は潮汁のようで、魚介の姿は見えないが出汁を濃く感じる。ただ、フライにべたっと添えられたできあいのタルタルは、僕が嫌いな、独特の市販品の嫌な味がしてだめだった。市販のドレッシングにも共通する、嫌な味、いつも不思議に思うのだが油なのだろうか。だから今日のフライ達は、ソースで美味しく食べた。


会計を済ませると、店主は「ありがとうございます、お気を付けて」と言った。引き戸を開けて、店を出るときも、もう一度「お気を付けて!」と声をかけられた。

防音シートの回廊を先ほどとは逆に歩きながら、市場の広い駐車エリアにまばらに並んだトラックを思い出した。今日は休日で、客は観光客が大半だった。しかし、あの食堂を、店を普段利用するのは、市場に荷を運んできたドライバー達なのだ。そこで二代にわたって店を守ってきた。だから、「お気を付けて」が客の背中にかける日々の挨拶になったのだ。

横須賀中央、「食堂」という飲み屋

Photo: “Fried horse mackerel set meal (Aji fry teishoku).”
Photo: “Fried horse mackerel set meal (Aji fry teishoku).” 2025. Yokosuka, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

電車に乗っていると、文章を書くヒントが思い浮かぶことに気がついた。ならば、特に旅自体の成果を気にしないで、どこかに行けば良いのではないかと思った。何も考えずにどこかに行く、というのは案外難しく、ChatGPTにプランを作らせると捗る。最近は記憶を持つようになっているから、訪問の感想を入れておいたり、現地で不満を入れたりすると、それがだんだん反映されてくる、、ような気がする。

しかし、いまいち地理は苦手のようで、電車の乗降駅を普通に2つ3つ間違う。遠回りさせられたり、見当違いの駅で降ろされたり。多分、地理的な相関関係、座標みたいなものではなくて、印象とか、歴史とか、なんかそういうもののベクターデータが強いのだろう。一方で、GeminiはGoogle mapとの連携を前提にしているので、そのあたりの地理感覚は間違いが少ない。しかし、例えば飲食店のお勧めを訊くと、回答はしてくれない。AI検索と検索広告ビジネスとの競合の整理が、未だ付いていないという事か。


今日は、横須賀中央駅に降り立つ。まずは腹ごしらえで、漁港の街ならここが良いでしょう、とGPTに薦められた「食堂」というPrefixが付いた、実質は恐らく飲み屋に入る。刺身定食にするか、フライの定食にするか、悩ましい。板長が刺身を切るような店には思えないので、ここはフライか。鯵フライでいいか。たっぷりのご飯と、ちょっとした刺身と、ひじきの煮物。期待値の水平線ぴったりのものが出てくる。しかし、海の間近のこの街で提供された鯵フライは、あまりに形が整ったマスプロダクト。そもそも旅の成果は期待していない、それに、平均的にうまいからいいや。

新たに鯵フライ定食の注文が入り、板長ならぬバイトリーダーが、冷凍庫から鯵フライを取り出す様子を眺めながら、自分の鯵フライを平らげた。

天丼

Photo: “Gochiso Tendon.”
Photo: “Gochiso Tendon.” 2025. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

いつもと少し違う駅で降りて、立ち喰いそば屋のあたりを歩くと、天ぷらと出汁の香りがしてくる。

子供の頃に食べた、出前の店屋物の匂いだ。甘辛い天丼のタレと、薄っぺらく切られた、酸化したぬか漬けの不思議な味。でも、その時、腹は空いていなかった。

翌日、無性に天丼が食べたくなって、ゆでたろうで持ち帰った。美味かったけど、ちょっと違う。


天丼てどこで食べられるんだ。そう言えば、「てんや」があったなと思い立って、隣町の商店街に行く。

この3年、オフィスからの帰りはタクシーでまっすぐ帰宅するのが精一杯だった。街をそぞろ歩こうなんて、思いつきもしなかった。それを今は、雑踏を眺めながら歩く。新しい店がいくつかできている。油そばの店に行列が出来ている。

てんやでのメニューは「季節のご馳走天丼」にした。初回でいきなり特上、みたいなメニューにするのはいささか気が引けたが、せっかくですから、というやつだ。鱧も、大エビも、穴子も入っている。タレは多めにする。味噌汁と、大根の漬物。てんやで食べるのは、多分初めてだった。店はこの街に住んでいた時から知っていた。店舗は古かったが、掃除は行き届いているようだったし、店員は洗い物を乾燥ラックにきちんとそろえていた。

天丼は、最初から最後まで美味に感じた。クーポンで付けた烏賊も良かった。人間が戻ってきたような気がした。
この数年を思うと、どこか違う場所から帰ってきたようだった。