「瀬戸内の日没はとても美しいので、ぜひ見て下さい」と勧められた。
夕方、小豆島からの帰りの船上から日の入りを見ようと思ったが、少し早めに港に着いてしまった。カメラを担いで、埠頭の先まで歩く。夕日に誘われる ように、人影がぽつりぽつりと見える。夕涼みがてら、階段に独り座る人。あるいは、友達と釣り糸を垂れながら海を見ている人達。
瀬戸内の波は低い。いつも凪のような、静かな水面が広がっている。空気が冷えて水蒸気が減ったのか、ぼんやりとかかった霞は消えていた。
大きな鯖、だろうか、固くこわばった魚の死体が、水面を流れていく。破れた帆のように、胸びれをつきだして、無様に、でも静かに。夕日の中を、こわばって、もう動かない。
明かりが落ちて、夜の冷たい風が吹き抜けると、鏡のような水面に少し波が戻ってきた。