入国審査

Photo: "Santa Tresa."

Photo: “Santa Tresa.” 2001/5. Santa Tresa, San Jose, CA, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

飛行機の窓から見るサンノゼは、ゆるりとした広大な谷である。黄土色の低山。赤茶けた砂漠、そこに人工的な緑と、背の低い建物がへばりついている。

そして、この谷の別名が、「シリコンバレー」


妙にスムーズな飛び方をする新型のB777が、滑らかに機首を下げる。埃っぽい平屋建ての家々が、視界に入ってくる。空港の近くには、低所得者層の家が並ぶ。そういうケースが多いことに、いやでも気が付く。

着陸を前にして、フライトアテンダントがピノのグラスを下げていった。


サンフランシスコと異なり、サンノゼ空港に、観光客の姿はほとんどない。不法移民が流れ込むせいか、入国管理は非常に厳しい。食い下がる審査官に、 会社の ID カードを見せて切り抜ける。ここは、ハイテク産業で喰っている街。僕が取り出した写真付きの社員証は、パスポートよりも雄弁に身分を主張する。

汗だくで空港のシャトルバスに乗ると、米国流の強烈な冷房が出迎えてくれた。カリフォルニアは、初夏を迎えていた。

アドリア海

Photo: 1995. Venice, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Agfa, FS

Photo: 1995. Venice, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Agfa, FS

映画ハンニバルは、確かに酷い代物だったが、ベネツィアの美しさは良く撮れていた。

ブレード・ランナーで有名な、監督のリドリー・スコットは、闇を撮る監督である。ハンニバルのスクリーンの中で、街の其処此処に潜む闇は、南欧の光と美しく調和していた。中世の暗さと、華やかさを併せ持つ、それが、この街の空気である。


入り組んだ水路を、アドリア海に向かって抜ける。

陰鬱な壁の向こうに鮮烈な青空。このあたりの景色は、ルネッサンスの時代から、さほど変わってはいまい。建築は、太古の昔からそこにある岩壁のように聳える。ベネツィアの闇には、死と恐怖と、そして妖しい魅力が潜んでいる。


ベネツィアは海の街だ。僕は、いつか、海のある街に住みたいと思っている。
未だ住んだことは、ないのだけれど。

注1:リドリー・スコットは、ブレード・ランナーや、ブラック・レインの監督。撮る画の綺麗さで、群を抜く。トップガンの監督トニー・スコットの兄。最近、いまいち、、。
注2:映画ハンニバルのあまりに、あまりなラストに愕然とした人も多いと思う。なんじゃ、ありゃ。あと、スターリングやクレンドラーのキャスティングも最後まで馴染めなかった。原作は、とっても面白いので、お勧めです。
注3:1995年撮影。6年たって、やっとコメントを付けられました。

ひょっとして、ここってシリコンバレー?

管理者は、地理が全く持って苦手であって、サンタクララという場所が、シリコンバレーなのだということに気が付いたのは、着陸10分前だった。
「なんか谷みたいになってるけど、ひょっとして、ここってシリコンバレー?」

国際空港というよりは、うらぶれた公民館のような入国管理事務所を通ると、そこはシリコンバレーだった。


ここに多分、観光客というのはいないのであって、世界中何処にでもいるはずのバックパッカーさえもいない。街には、Cisco, Compaq, Nortel, Dell, Apple といった業界の有名どころから、bea, Novell, Netgear 等のちょっと通な感じの会社まで、あらゆる「ハイテク産業」のビルがあふれている。ホテルの窓から、昔自分が担当していた(させられていた、いや、はめられた)製品の会社が見えたりするのは、なかなか渋い。もちろん、「ここって、ついこの間まで、xxxの本社だったよね」という感じで、消えてしまう会社も少なくない。

ある種、アメリカのステレオタイプである、ボロボロの車は少なくて、Porsche, BMW, Mercedes, Lexus, Acura, Volvo の最新モデルが、駐車場を埋めている。つまり、斜陽と言われつつも、シリコンバレーには、まだ金がある。だから、別にミーティングのゲストにマジック・ジョンソンが来ていたりしても不思議ではない。


マジック・ジョンソンは、元NBAの選手ではあるが、現在は映画館チェーン、珈琲屋のフランチャイズ(羊ページでさんざん言ってるスターバックスだが)、レストランチェーン、スポーツクラブチェーンを経営するオーナー社長だ。
「初めて、自分のオフィス、自分のデスクに座り、足を投げ出して、秘書にコーヒーとドーナッツを頼んだ。それが、自分の夢だった。」

それは、もちろんある種の誇張だろうが、彼の夢は、「ビジネスマンになること」だったのだそうだ。NBAという輝かしい経歴を経て、ついに彼は「ビジネスマン」になった。そんな元NBAのスーパースターの言葉を、IT業界の「ビジネスマン」達は、どんな思いで聴いたのだろうか。少なくとも、僕はコーヒーが嫌いだし、朝からドーナッツを食べたいとも思わないけれども。


成功は、道の両側にある。例えば、名もない学生が興した企業が、全米を代表する企業に成長し、無数のオフィスを並べている。HPSunも、みんなそうして大きくなった。

もちろん、成功するということは、誰かをうち負かすことでもあるし、足蹴にすることでもある。それはネガティブでシャイな考え方だという気分もある。そうは言っても、サンノゼのダウンタウンを少し歩いてみると、そこにはやっぱりホームレスがいるし、雑然とした小さな家々が並ぶ、うらぶれた通りが続いているのだ。

空調の効きまくったホテルで、次世代インターネットに関する話題が飛び交っている世界と、そこから数キロ先の路上で、なにやらアイスクリームのようなものを売っている老人の世界とは、やっぱりとんでもなく違う。良い意味も、悪い意味もなく、事実として、シリコンバレーは、今の時代の成功者のための街だ。


さて、ホテルの前に、路面電車みたいなものが走っている。一日、乗り放題で3ドルなので、サンノゼの太陽がギラギラする中、ぶらり路面電車の旅をしてみた。写真も撮ったので、それはまた帰国してからということで、、。

注1:地理が苦手というよりも、地理を気にしないという方が正解。
注2:本来はビジネスパーソンでしょうが、日本語としてはあまり定着していないので、ビジネスマンという表記にしています。