旅行記の記事一覧(全 437件)

オキちゃん 2023

Photo: “Dolphin Show.”
Photo: “Dolphin Show.” 2023. Okinawa, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

「美ら海水族館は行った事ある?」

「いや、ないですね、初めて」

それはそうだ。21世紀に入って、沖縄には出張でしか来ていないのだから、水族館には行けない。行けなくも無いが、行った事は無いのだ。純粋な旅行として初めて沖縄に来て、地元民のアドバイスに従って近くのコンビニで割引チケットを買い(これはお得な情報だった)、初めて美ら海水族館のゲートを潜る。初めての筈だ。初めてなのか?

来たことは無いはず、しかし、来たことがあるような気がする。なんだろう?この既視感と、何にも見覚えの無い感じ。


イルカショーを宣伝する立て看板の「オキちゃん」という単語を目にしたときに、突然いろいろなものがつながる。僕は、オキちゃんを知っている。オキちゃんショーを見たことがある。しかし、この神殿のようなテーマパーク然とした美ら海水族館の建物も、舞浜のあのリゾート施設のようなエントランスも、何もかもがまったく記憶にない。どういう事だ?

このオキちゃんは、記憶にあるオキちゃんなのか?しかし、あのオキちゃんに僕が会ったのは、もう25年も前の話ではないか。イルカはそんなに長生きするのか?

実際、オキちゃんは25年前に見たオキちゃんだった。僕は別の世界線を生きていたわけではなく、オキちゃんは日本で飼育されている中では最長寿のイルカとして、いまだ元気なのだった。そして美ら海水族館は、国営沖縄記念公園(通称:海洋公園)の中の一施設。どうりで、見覚えがないが、来たことはあるわけだ。1995年には、既にそこに海洋公園があり、オキちゃんが居て、その後2002年に美ら海水族館が建設されるのだ。


1995年、僕は校外実習で沖縄に行き、ギチギチのスケジュールに嫌気が差して、息抜きとして皆で海洋公園に行った。そして、若かりしオキちゃんのショーを見た。オキちゃんは、その時からスターとして高くジャンプしていた。知らないはずなのに、知っている。見覚えの無い場所なのに、知っているイルカがいる。そういう午後。

用賀、何のイメージも無かった街

Photo: “Octopus! Octopus! Octopus!”
Photo: “Octopus! Octopus! Octopus!” 2025. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

用賀、何のイメージも無い街。駅前のスーパーは、とにかく今日は蒸し蛸推しだ。小綺麗というのがぴったりな街並みの、人工感、富裕感、そんなものに軽く圧倒されながら、LEXUS用賀の横を通って砧公園に向かった。GPTが提示した目的地は、公園の一角にある世田谷美術館。今日は写真展が開かれている。

写真家 野町和嘉の名前を僕は知らなかったが、多分見覚えのある写真はあった。NHKのドキュメンタリーで見たのかもしれない。エチオピアのキリスト教会をテーマにしたパートの、異世界感、古代感。ミュージアムショップで、光沢印刷が美しい80年代当時のエチオピアがテーマの絶版本を買うことができた。写真家の家に在庫されていたのだという。もう、この先どんどん限られて行くであろう、紙の写真集を買う。(集めている)

80年代に世界を巡ることができたのは、とんでもない幸運。今は、それはただのYouTuberレベルの話になってしまう。今時、ドキュメンタリーなんてものは流行らない。それがとうに、フィクションであることは分かってしまっている。映画の論法を使えばギリギリ存在できるか?というぐらいの所ではないか。


世界をめぐって写真を撮る、そういえば自分はもともとそんなことがしたかったんだな、というのを思い出した。だが、今の自分に何ができるだろうか。家を空けて長期に旅にでる。世界の写真を撮る?2025年に?それはいささか、需要も供給もなさそうだ。あるいは旅のエッセイ?そんなものを最近自分は読んだだろうか。

写真家が、自分の撮影してきた時代は、世界がフラットになる前の最後の時代だと書いていたことは、全くその通りなのだろう。今から、何の意味を背負って世界に出て行くことができるのか、その必要があるのか。もっとも、必要なんてものはどうでもいいのだと僕は知っている。自分が十分にやりたいことをやっているのか、それだけの話。

奥多摩

Photo: “Swallows."
Photo: “Swallows.” 2025. Tokyo, Japan, Google Pixel9.

GPTの指示に従って奥多摩の駅に降りたときから、田舎の駅にはあるまじき緊迫感というか、観光地、いや深夜のドンキのような緊迫感を感じたのだ。

そのカンは当たっていて、奥多摩の清流は、ガラの悪いBBQ客、母国のノリで爆音をかける東南アジア系、遊泳禁止の巨岩から飛び込む白人、もちろん日本人の「輩」もたくさん居たけれど、そこと一線を画するインバウンドのマナーは衝撃だった。

簡易トイレが溢れたような、嫌な臭いの水で泥濘む渓谷沿いの径を渡った時点で、もう限界を感じた。嫌なにおい、嫌な空気、ここには一刻も居たくない。


インバウンドが入って来れない近隣の神社で巻き返しを図る。GPTにプランBを求めた。混雑状況は、ほかの駅ならまだましとの事。であれば、大多摩ウォーキングトレイルというものに行ってみよう。本来、JR青梅線・古里駅から奥多摩駅までのコースのようだが、鳩ノ巣まで電車で移動し古里駅に向かってトレイルを逆をたどる。

「平坦な道で、気持ちの良い川沿いのトレッキングコース」だとGPTは言っていた。後から考えれば、登山に慣れた方々のBlogか何かをモデルに取り込んでいるのだろう。ド素人の僕からすると、「登山」みたいな道である。ツキノワグマ注意の看板が出る林道を上り下りし、木の根を分ける。キーワードだけで進んできたので、トレイルの全体像は分からない。道端に時折掲げられた道標だけがヒントになっている。

道中、道を間違えたのでは?という疑念が最高潮に達するぐらいで、「大多摩ウォーキングトレイル」の次の道標が現れる、絶妙なゲームバランス。ツキノワグマが出ます、と書いてある林道では休憩する気になれなかったが、途中に設けられた無料の休憩場所に救われる。

朝、家の近くのセブンで買ってきた紀州梅のおにぎりが、これ以上なく美味く感じた。デザートのココアクッキーを用意しておいたのも、自分を褒めたい。この暑さでも、クッキーはびくともしない。塩分と糖分。食べ終わって道を下っていると、さっきより力が湧いてくるのが分かる。モノを食べるというのは凄いこと。


鳩ノ巣駅から古里駅までは、地図の記載で3.4km、林道なので歩く感覚はもっと遠い。何組かのトレッキング客とすれ違い(僕が逆行しているのだ)、川を渡り、市街地に出る。青梅線の線路が、道を併走するようになると、古里駅にたどり着いた。

スッカスカの時刻表によれば、30分の待ち。無人駅、トイレもないので(実は反対側にあった)誰もいないホームで汗で重くなったTシャツを着替えた。レールの間には雑草が背高く生える。若い燕が4羽ばかり架線の間を行き来している。ホームの両端には色と水分を失った、背の高い雑草が生え、遠くの山並みの緑は深い。

Photo: “View from the High Deck, Musashino"
Photo: “View from the High Deck, Musashino” 2025. Tokyo, Japan, Google Pixel9.

人の気配がして、甲殻機動隊のTシャツを着た50歳がらみの男に話しかけられる。「いや、もう5分も待てば電車は来ますよ」と答える。暑くてかなわない。32度とGarminは表示しているが、湿度が高く体感気温はもっと高い。

青梅からはグリーン車に乗った。初見では分からないモバイルSUICAを使ってグリーン券を買う方法は、GTPに聞いた。ハイデッキの2階からは、見慣れた中央線がずいぶん違って見える。1時間以上乗って千円なのだから、案外お買い得かもしれない。車内販売のお茶は出ないけれど車窓が移り変わって飽きないし、とても空いている。

沿線に住む古い知り合いに会いに行ってもいいなと思ったりした。電車は国分寺を過ぎた。