五右衛門風呂

Photo: 五右衛門風呂 2006. Kagawa, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EBX

Photo: "五右衛門風呂" 2006. Kagawa, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EBX

旅番組でおなじみ、五右衛門風呂。

見るとやるとでは大違い。そうは言うけれど、やっぱりやってみないと分からない。


夢をおっかける貧乏さんを扱うテレビ番組が、ちょっと前に取材をしていったという。高松空港から山一つ越えて、その貧乏さんの隠れ家にやって来た。 放棄された農家を買い取って改装し、畑を作り、生活をしている。ここで、五右衛門風呂に入れるらしい。田んぼに囲まれたわらぶき屋根。うん、いかにもだ。

あらかじめ連絡を入れてもらっていて、着いた時には、庭の隅に据え付けられた五右衛門風呂からは煙があがり、お湯が沸かされていた。

どうぞ、と言われてまじまじと触ってみると、当たり前の事だが鉄むき出しの底面がやけに熱い。本当にこれに入るのだろうか?


「あのー、なんか底に敷いたりしないんですかね?」
「あー、ごめんごめん、忘れてた。」

危ない。あまりにも危ない。そのまま入ったのでは、ただの釜揚げだ。貧乏さんは、あまり細かいことは気にしないのだ。畑の脇の五右衛門風呂で、体を 洗うのもそこそこに、窯につかる。貧乏さんが、畑の生け垣あたりに生えている花を切っている。何に使うのだろうと思ったら、窯の中に入れてくれた。ハーブ の束だった。結構嬉しい。


薪に落ちたお湯が、水蒸気になって釜の周りを取り囲む。灰に水がかかって、なんだろう、焼き芋みたいな匂いがするなかで、首だけを出して、真っ昼間 に風呂に入る。非日常すぎて、アトラクションのようだ。釜の底に板を敷いているとは言っても、足の裏は、じわじわどんどん熱くなってくる。五右衛門風呂の 暖かさというか、熱さの独特さはやっぱり入ってみないと分からないものだ。

このお風呂の設計上の難点は、水道の蛇口が5メーターぐらい向うの、畑の真ん中にあることだ。そこからホースで水が引っ張られている。つまり、自力 ではうめられない。かといって、貧乏さんも、ガイドさんも、女性なので遠慮して母屋の方に引っ込んでしまった。つまり、僕は一人、うだり続ける構造。


五右衛門風呂は庭に面して置かれている。景色を見たかったので、簾は上げておいてもらった。

畑を挟んで、道の向うから、農家のオッサンが歩いてくる。微妙に目があって、会釈するものの、見ないふりをされる。じーーーっと、オッサンを目で追いながらつかる五右衛門風呂は、なかなかに味わい深い。

瀬戸内の日没

Photo: 死体 2006. Kagawa, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EBX

Photo: “死体” 2006. Kagawa, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EBX

「瀬戸内の日没はとても美しいので、ぜひ見て下さい」と勧められた。

夕方、小豆島からの帰りの船上から日の入りを見ようと思ったが、少し早めに港に着いてしまった。カメラを担いで、埠頭の先まで歩く。夕日に誘われる ように、人影がぽつりぽつりと見える。夕涼みがてら、階段に独り座る人。あるいは、友達と釣り糸を垂れながら海を見ている人達。


瀬戸内の波は低い。いつも凪のような、静かな水面が広がっている。空気が冷えて水蒸気が減ったのか、ぼんやりとかかった霞は消えていた。

大きな鯖、だろうか、固くこわばった魚の死体が、水面を流れていく。破れた帆のように、胸びれをつきだして、無様に、でも静かに。夕日の中を、こわばって、もう動かない。


明かりが落ちて、夜の冷たい風が吹き抜けると、鏡のような水面に少し波が戻ってきた。

ひとり

Photo: 瀬戸内海 2006. Kagawa, Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak SG 400.

Photo: "瀬戸内海" 2006. Kagawa, Japan, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak SG 400.

海を見て、空を見て、
ひとりぽっちだなと思う。