金曜ロードショー

Photo: 2002. Chita Peninsula, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RHP III, F.S.2

Photo: 2002. Chita Peninsula, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RHP III, F.S.2

「名古屋に見るもんなんかないぞ」

と友達は言った。確かに、見るものはなかった。名古屋城は、以前来たときにとっくに見ていた。城内の「またがれるシャチホコ」にもちゃんとまたがっ た。今朝は、喫茶店でモーニングを食べたし(でもトーストもコーヒーも好きじゃないので、パンケーキとオレンジジュース)、さっきは回転寿で「エビフライ 握り」を食べた。(意外に美味しかった。マヨネーズ味だったが)もう、見るべきものはないのかもしれない。

別に観光を目当てに名古屋に来たというのではなく、名古屋に転勤になった友達の様子を見に来た。でも、やっぱり、何か観光は必要。なぜなら、僕は一眼レフを背負ってきたのだ。何か写真を撮らせろ。


そこで、友人は車の向きを変え、いきなり高速道路にのって、おもむろに海岸線を目指しはじめた。一路知多半島へ。海がある限り、夕日を見に行く。そういう安易な行動様式と、貧困な発想が、今までの旅を支えてきた。

時間は 4時過ぎ。ネットで調べる限り、法定速度を守っても、日の入りには、余裕で間に合う。日本全国の日の出日の入り時刻を網羅したページというのがちゃんとある。そう、見知らぬ土地でも、ネットがあればたいていのことは分かる。嫌な時代だ。

ガラガラに空いた高速道路を、海に向かって走る。夕暮れの知多半島。海岸に沿って大小の民宿と旅館が立ち並び、ちょっとひなびた熱海を思わせる。そんな場所だ。


オフシーズンの海岸には、極端に人がおらず、というか誰一人おらず、極度に湿気を含んだべとべとのぬるい海風が吹いていた。男二人で眺める海岸には ふさわしい。海辺のホテルのベランダから、物珍しそうに観察する暇な泊り客を無視して、僕はシャッターを切った。海と夕日なんて、どこでだって撮れるの に。

そして、金曜ロードショーみたいな写真が撮れた。(うーん、、)


注1:熱海もひなびてないか?という指摘は、この際おいておく。
注2:今も金曜ロードショーはこういうオープニングなのだろうか。

ランウェイの近くまで

Photo: 2002. Nagoya International Air Port, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Kodak EB-2, F.S.2

Photo: 2002. Nagoya International Air Port, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Kodak EB-2, F.S.2

ランウェイの近くまで走った。その間にも、飛行機はみるみる近づいて来る。巨大なジェットは、あっと言う間に頭上をかすめ、鉄条網の向こうに消えた。

少しして、石油ストーブの燃え残りのような、甘くむせっぽい匂いがする。懐かしい、景色だ。


小学校の頃に住んでいた家は近くに空港があって、真上を飛行機がよく通った。

僕はその頃、まだ飛行機に乗った事がなくて、銀色ににぶく光る胴体を、家の庭からまぶしく眺めた。乗りたいとは思わなかった。あれは、特別な人が乗るものだと思っていたからだ。


そして大人になって、飛行機に何度も乗って、何度も旅をした。

僕は旅が好きだ。


注:名古屋国際空港近くの公園は、ほんとに滑走路ぎりぎりまで近づく事ができる。

知多半島: 鴎

Photo: 2002. Chita, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RHP III, F.S.2

Photo: 2002. Chita, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RHP III, F.S.2

太陽は少し前に、沈んだ。水平線の向こうから、薄く差す残照に、ぼんやりと海が光る。暖かい色はもう無い。

この時間の海は、どこか僕を不安にさせる。見知らぬ土地の、見知らぬ海。


目を凝らすと、海面からポツポツと何かが生えている。杭。その上に、蹲る無数の鴎。

鴎は鳴いていない。湿った海風を受けながら、ただ杭の先端に蹲っている。そこが彼らの家という訳ではあるまいが。

その光景は、僕の目に酷く寒々しく映った。そして、朽ちた杭の上に羽を休めるあんな鴎だけはなりたくない、そんな馬鹿げたことを考えた。


数日の旅行から帰り、いつものように撮影したフィルムを冷蔵庫に入れ、一息ついていた。ふと部屋を見回すと、4月のままのカレンダー。本棚には、くもの巣がかかっていた。

寂寥というのではない。ただ、思い出したのは、何故かあの鴎たちの事だった


注:既に太陽が沈み、手持ちで撮影できるぎりぎりの明るさ。海岸の道路を歩きながら撮った1枚。よく映ってたなぁ。