雨に煙る市街

Photo: 1995. Paris, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

Photo: 1995. Paris, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

雨に煙る市街を、エッフェル塔から望む。

エッフェル塔に登る頃になると、突然天候が荒れ始め、春の嵐のような激しい雨に襲われた。鉄骨むきだしの展望台には、まともに雨がたたきつけ、とても景色を楽しめる状況ではない。

エッフェル塔の展望台というのは、東京タワーのようにガラス張りの快適な空間ではない。言ってみれば、巨大な物干し台みたいな場所なのだ。

一般的には悪天候をものともしない周りのヨーロッパ人観光客も、為す術無しといった感じで物陰に隠れ、時たま意を決して景色を見に雨の吹き荒れる展望エリアに足を踏み出した。

ものすごい風と、たたきつける雨で、まともに撮れたのはこの1枚だけ。風でカメラがぶれる。カメラを抱えて、手すりにつかまりながら、必死に撮った。

遠くに見えるはずの、ポンヌフ(ポンヌフの恋人、のあの橋)を撮ろうと頑張ったが、まあ、あのあたりだろう、という事ぐらいしか分からなかった。

外国人労働者

Photo: 1995. Paris, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

Photo: 1995. Paris, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

パリの人たちは、親切じゃない。観光客にウンザリしているのか、黄色人種がキライなのか知らないが、親切じゃない。

エッフェル塔の袂まで来たとき、突然、友人が「腹が痛い」といいだした。既に、顔には脂汗が浮いている。

塔の係員に「トイレはどこだ」と聞くと「上だ」という。

上って、、、。

見上げたエッフェル塔は、そびえ立ち、トイレは果てしなく遠い。

いくらなんでも、どっかに従業員用かなんかがあるだろう、と思って交渉するが相手にされない。入場切符を買って、エッフェル塔に登れという。無茶だ。

どうにもならなそうだったので、意を決してトイレ探しを始めた。近所を通りかかった、トルコ人風の一団に(少なくとも、生粋のフランス人よりは、外国人労働者の方が親切だろうと思った)聞いてみた。

「オレノトモダチガ、ハライタダ。トイレハナイカ、トイレ!トイレ!」と必死に訴えたところ、何故か彼らは大受けし「パリの街では、夕方7時を過ぎたら、藪がトイレだぞ、ムッシュー。」と答えが返ってきた。(ムッシューはウソ)

サダムフセイン風の大男20人に囲まれた瞬間は怖かったが、ある意味で親切な人たちだった。

ちなみに、この後友人はエッフェル塔基部近くの茂みに、記念の品を埋設することになった。

とりあえず、エッフェル塔

Photo: 1995. Paris, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

Photo: 1995. Paris, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

夜のパリ中心部は人影がない。日本の繁華街のように活気のある街を想像して、遅くまでうろうろしていたら、静寂の中に取り残されてしまった。店は、営業時間が終わるとさっさと閉めてしまうため、街はあっという間に閑散とする。

とりあえず、エッフェル塔に行くことにした。

エッフェル塔は、それこそ街の至る所から見える。だから、塔を目指して歩いていけばいつかはたどり着くだろうと考えていたが、甘かった。歩いても、歩いても近づかない。やつは、思った以上にデカイのだ。

そのうち、モーターハウスが並び、うつむき加減の人が怪しく闊歩するような、怖い路地に入り込んでしまった。その、危険な雰囲気の漂う街角で、とっさにカメラを取り出して撮してみた。

そうしたら、案外かっこいい景色。

芸術と、文化の都であるパリには、こんな風にはっとさせられる景色がたくさんあった。セーヌ川の周辺をフラフラ歩くだけで、沢山の美術館を見つけることができるこの街では、自然といろいろなものが洗練されるのかもしれない。