万年筆、再び

お礼状、という仕来りが世間にはあるそうだ。アシスタントが、名前の部分だけを空欄にして、端正に印刷された礼状を机に並べる。

「こちらに、お名前をお願いします。」

「万年筆とか無いんですけど、ボールペンでいいですかね。。」

「、、いいと思います。。」

まぁ、良くは無いのだろう。だが、持っていないものは仕方ない。書き損じを考慮して、練習用の紙も用意されているのは助かる。手書き文字なんて、ちょっとした走り書きしかしないのだ。

言うまでも無く、僕は中学の時から、文章を書くのは基本的にキーボードを使ってきた。そういう時代が来ると思ったから、どちらかと言えば、努力してキーボードを使うようにしてきたし、Palmの時代から、記録はガジェットに入れるようにしてきた。

それが、手書きのぬくもりだの、メモの大事さだの、改めての手書き礼賛みたいなのはどうなんだ。万年筆はずいぶん昔に1本買ったのだけれど、案の定使い道も無く、インクが固まって、どこかにやってしまった。


しかし、今回の件でさすがに反省して、もう署名だけの用途と割り切り、万年筆を物色。一瞬、YouTubeのレコメンドが文具チャンネルだらけになる。とはいえ、文具愛好家界隈のようなキモチにはどうしてもなれないので、必然的に何か一ひねりあるものを探す。

結局パイロットが出している、キャップレスのノック式万年筆、というものにしてみた。キャップがいらない、というのは画期的。一見するとボールペンみたいで、ロープロファイルというか、全然高価そうに見えないのもいい。ちょっとだけ青っぽい色のインク「月夜」を、もう見栄を張らずにカートリッジで買ってしまう。

日本の文具の技術は世界最高水準、とはいえ、ほんの一週間程使わないだけでペン先は乾いてしまう。インクも思わぬタイミングで切れる。しかし、元が不便なものだと割り切って常用を諦めれば、そんなに悪くない。それに、落書きの楽しさというのに目覚めた。そう、電子的なものでは、なかなかできないのが、落書き。マウスでは落書きは出来ないし、タブレットを用意して落書きをするというのちょっと違うのだ。

特に面白い所は無い、業務用デバイス AfterShokz OpenComm

Photo: “Highway light.”

Photo: “Highway light.” 2016. Okinawa, Japan, Apple iPhone 6S.

去年、AfterShokz AEROPEXの事を書いて、今でもずいぶんアクセスがあるようだ。そして、今はテレカン用に作られたAfterShokz OpenCommも併せて使っているので、その感想も書いておきたい。(外出にはAfterShokz AEROPEXを使い続けている。後ろから来る危ない自転車に、何度か気付くことができた。実用的な製品だ。)

製品自体は、クラウドファンディングで募集がかかったタイミングで申し込んだので、9ヶ月ぐらい(クラウドファンディングなので、正確な配送タイミングが今となっては分からないのだが)使っていると思う。買った理由は単純で、AEROPEXで骨伝導が長時間のテレカンに向いているのがはっきり分かった事と、やはりマイクにブームが付いて居た方が、会話の音質的に安心感が有るからだ。

9ヶ月、在宅勤務で使っていて、一言で言えばとても実用的。面白い所は何も無く、仕事に使うのに過不足の無い、経費で落としたくなるような、そういう製品だ。


音質は、AEROPEXとの違いは感じない。マイクブームが有ることで、左右の重量バランスが異なるが、それは気にならない。デザインを犠牲にしてボタンが大きいのは業務用っぽいが、電源のオンオフはずっとやりやすい。ただ、装着時には自分の目には見えないボタン類を何故オレンジ色にしたのか?というUI上の疑問は感じる。(今の製品写真を見ると、ボタンも黒色になっているので、後のロットでは変更されたのかもしれない)ヘッドセットとしては、ミニマルなデザインなので、カメラONの時に、耳うどんや、ゲーミングヘッドセットで登場するよりも、プロフェッショナルに見えるかも知れない。(多分、自己満足だ)

特徴的なブーム付きのマイク。鼻息がかからない程度のブームのサイズで、頬の横ぐらいに来る。マイク自体の指向性が結構強いのか、あるいは信号処理としてのノイズキャンセルが良く効いているのか、外の騒音はかなり拾いにくい印象。話しながら、お茶を入れたりしても相手には分からないみたいだ。自分の声がどう届いているのかは、正直分からないが、音質的なクレームを言われたのは1度だけ(結局相手のPCがおかしかった)。声を張らなくても確実に届くのは、特に長時間のテレカンではとても楽ができる。


自分の場合、英語でテレカンというのは、やはり聞き取りもそうだし、アクセントを持った発音でどこまで相手に通じるかという難しさが有るわけだが、AfterShokz OpenCommで今のところちゃんと切り抜けられている。言語なんか関係無いだろ、と思うかも知れないが、母国語と違って脳が補ってくれる情報量が圧倒的に少ないのだから、やっぱり不安はある。実際には、米国も、インドも大丈夫。多分、言語によって周波数の頻出帯域とかは違うんだろうと思うが、考えてみれば元がアメリカの設計なのだから、テストはまず英語でやっているわけだ。英語でのテレカンを生きて切り抜けられる製品なら、正直この倍の値段でも喜んで出すが、今のところ、AfterShokz OpenCommは問題無い。

充電が早いのも特徴になっているが、バッテリメンテナンスはちゃんとやってないので、実際どれぐらい持つのかはちょっと分からない。公称16時間となっているが、一日の半ばで切れたことはあるし、では朝の時点でフル充電だったのかと言われると自信は無い。使わないときに常に充電しておく、というのもバッテリに悪そうなので、午後が長そうなときは昼にちゃんと充電をかけておく、位の運用にしている。

AfterShokz AEROPEXの時に書いた、ペアリングがクソ、という話は、もう業務用のPCにしか繋がないという運用にしたので、改善されているのかどうかは分からない。なお、音量ボタンは期待通りに動作したためしがなく、+か-を押すと「バッテリーは充電されています」という何の価値も無い情報を喋るだけだ。主にこれを使うのは、Teams上であって、Teamsのデバイスコントロールには、これまたクセがあるので、一概にこの製品のせいだとも言えないが、このあたりは相変わらずの完成度なのかも知れない。そして例によって、ファームウェアアップデートができそうな気配は無い。


まとめると、圧倒的に疲れない骨伝導のメリットはそのまま、マイクの性能は高く、バッテリーはかなり持つ。エキサイティングな要素は何も無い、(音量ボタン以外は)きちんと動く、仕事で愛用するに値する。業務用途にぴったりだ。

あ、それから毎度頑丈すぎてリサイクルに出すために潰すのが困難な紙箱、は正直いい加減にして欲しいが、アメリカの輸送環境を考えるとこれ程の強度が必要という事だろうか?(そんなことはないだろ)

その手があったか、Shure true wireless secure adapter.

ベスト・ワイヤレス・イヤフォンクエスト最終章、音質がベストなワイヤレス・イヤフォン、それが最後のピースだ。この半年に買ってきた長時間使用でも耳を痛めにくい骨伝導AfterShokz AEROPEX、あるいは、ひたすら利便性だけが高いApple AirPods Pro、そのいずれも、音質というのは言及すべきものではなかった。では、音質ベストのワイヤレス・イヤフォンはあるのか。いや、そもそもそれを求めるなら、ワイヤードで良いのでは無いか。

ところで、スタパ齋藤って何やってんだ?という話題がふと出た。このページでも過去に沢山のガジェットをスタパの記事に影響されて買ってきたが、そういえば最近あまり見かけない。でも、ちゃんと(昔ほどの更新頻度ではないにしても)連載は続いていて、その最新記事がまさに、このShureの新製品だったのだ。最近仕事で、Shure SM7Bを買ってみて、その品質に改めて感心したのだが、その不便さからほったらかしになりがちなShure SE535が、一気に輝く新製品が、ノーチェックで発売されていたのだ。


Shure true wireless secure adapterが何かと一言で言えば、ShureのMMCXを使う系統のイヤフォンを耳掛け式ワイヤレスにコンバートできる、Bluetoothイヤフォン・アダプタだ。そして定価は2万。アダプタだから、イヤフォン本体は含まれない。でも、このクラスのイヤフォンだと、線だけで普通に万行ってしまうので、アダプタで2万は高いとも言えない、むしろ安い(いや高い)、という感じになると思う。しかもAAC伝送対応、即買い。

この製品の良いところは、MMCXから先の伝送部分だけが製品化されている所。イヤフォン部分は、自分の好みのShureのイヤフォンが使える。いわゆる、Shure掛けと言われる、耳の後ろに配線を逃がす、特殊な付け方をするイヤフォンなので、耳かけ式のアダプタというものを、元々のイヤフォンへの加工無しに実現している。Shure掛けが生まれた時に、Bluetoothによる無線伝送というビジョンは無かったはずで、これはまさに偶然の産物だ。しかし、結果としては、安くはないShureのイヤフォンへの投資に対する、非常に長期的な保証を生むことになった。


製品としては、やっつけで作ったものでは無い事は明らか。まずサポートするcodecがatpXとAACの両方だ。パテントコストをけちってAACを無視する製品が多い中で、きちんとAACを、なんの売りにするでも無く当然のように入れてくるShureの凄さ。バッテリーの持続時間は公称8時間だが、もっと持つような気がする。構造上、外耳の後ろのスペースを使えるので、十分なバッテリーを収容できる容積があるし、実際容量が大きいと思われる。また、入力が無いときはアンプを切っている(音楽の出始めに小さいノイズが入る)事からも、かなり効率的に動いていると考えられる。充電器を兼ねるケースは、アメリカンサイズでお世辞にもコンパクトでは無いが、3回分のフル充電に耐える容量があるそうだ。24時間使えるのであれば、出先で困る事は無いだろう。

実際に使って見ると、Shureの高音質を左右独立のワイヤレスで使える事が、ここまで快適なのか、と驚く。AirPods Proよりは接続の不便さ(と言っても、普通のBluetoothデバイスの使い心地)があったりするのだが、音質が全く別次元なので、少し不便ながらこっちを使ってしまうことが増えている。これは凄い事で、iPhoneとズブズブにインテグレートされた便利さを、質による体験が凌駕しているわけだ。音自体は、Shureのイヤフォンの評価そのものになってしまうので、ここでは書かないが、極めてちゃんとした品質だと感じる。


じゃあ、Shureを持っていない人が、高価なShureのイヤフォンとこの製品を新たに揃える価値が有るのか?というと、個人的にはやはりあると思う。コンシューマー向けのプロダクトで、ちゃんとした音楽の製品というのはやはり少ない。デジタルの模倣は比較的簡単にできるが、物理的なノウハウや官能面でのチューニングが大きな意味を持つイヤフォンの領域でのShureのアドバンテージであったり、信頼性というのは一歩も二歩も進んでいる。

そして、伝送系は恐らく間を置かずに陳腐化し、製品型番がRMCE-W1となっていることからも、W2が将来リリースされるのだろう。しかし、その時も、間違いなくイヤフォン部分はそのまま使える。この陳腐化する部分と、普遍的な部分が分離されているというのは、まったく画期的で、入れ替わりの激しいデジタルの時代にも、いろいろな示唆を与えるだろう。

相変わらず、装着が面倒なShure SE535だが、聞こえていなかった音が聞こえてくる驚きは、やっぱり大事なのだ。