美味しいものについて書かれた、ちょっと昔の本というのは面白い。今の、商業主義にどっぷりひたった、世知辛いグルメ本みたいなものと違う、もっとマニアックで、好きでやってるぞみたいな、そういう感じ。
たとえば、池波正太郎の「散歩のとき 何か食べたくなって」は良い。
池波が若い時分から親しんだ、日本各地の食べ物について、実に楽しそうに書いてある。作者に失礼な気もしてしまって、ここに書いてある店にどんどん 行こうという気分にはならないが、(値段もあまり安い店ではないし、代替りもしているし、、)池波のリズムの良い食物談義は、読んでいるだけで十分楽しい。ちょっと気取って、ふらふら一人でどっか新しい店を開拓に行ってみたくなる。
それにこの本、巻頭についている料理の写真がなんとも格好良い。京都松鮨の川千鳥、みの家の桜鍋、村上開新堂の好事福廬。正確無比な写真というわけではないのだけれど、70年代の色合いというか、その時代の雑踏みたいなものが、そこにはある。
もうちょっと日本が若かった時代の、そういう空気の漂う写真。自分の記憶にあるわけがないのだけれど、最近、そういうものが妙に懐かしく感じる。
注:「散歩のとき 何か食べたくなって」, 池波正太郎, 新潮社, 1981.