香港の中心部は、日付が変わってからも、女性も歩けるくらい、治安が良い。終電間際の地下鉄に、若い女性が一人で乗っているのもよく見たし、深夜の地下道を歩く人たちも、さほど緊張感を持っているように見えなかった。
ただ、通りから通りへ、ブロックを移るだけで表情を変える町並みは、時に緊張感を強いる濃い裏通りがあったり、ギラギラした香港的ブランド店が並んだり、色とりどりだった。
細かい通りを、行き当たりばったりに通り抜けて、今居る場所もよく分からなくなった。心地よい彷徨い感の末に、路面のアイリッシュパブに腰を落ち着けた。やけに貧相なピーナッツを割りながら、ヒューガルデンとギネスを飲む。
目の前にはセブンの見慣れたサインがあり、狭い道をパトカーがサイレンで威圧しながら、あるいはAMGのメルセデスが横柄にクラクションを鳴らしながら通った。そんな光景を呆然と見ていると、同行の一人が
「新宿区ですね」
と言い切った。そう、香港の中心街を何かと比較した場合、その対象として東京というくくりをすると異なる国だ。が、そのブロックからブロックへの多様性、治安のレベル感、無国籍でエッジな風俗、そういう事を一言で、我々の理解可能なものに置き換えるとすると「新宿区」なのだ。
なるほど、この瞬間の空気とこの景色は、とても僕たちの日常に近い。