百葉箱

Photo: 雨の径 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

Photo: "雨の径" 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

雨の匂いをかぐと、最初に通った小学校の景色を思い出す。

外に出られない雨の日、渡り廊下から外を眺めると、コンクリートで固められた灰色の中庭に、白い百葉箱が見えた。教室にも廊下にも、雨の匂いが充満していた。

いつも一緒に遊んでいる仲間達も、雨の日はちょっとバラバラ。晴れたら、また遊ぼう。

そういう暮らしが、ずっと続くんだと思っていた頃の記憶。暫くして僕は、親の仕事の都合で見知らぬ土地の学校に移り、二度と戻らなかった。


朝、バス停までの裏道は舗装が悪い。道はところどころ大きな水たまりに占領されていて、僕は花壇になっている分離帯の上をバランスをとって歩く。スーツ姿でやることじゃないけど。

踏み外さないように、バランスを崩さないように。

雨の匂いはきっと変わっていない。僕だけが、変わった。

居酒屋「どん底」

Photo: バケツ 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

Photo: "バケツ" 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

新宿某所。

雨だ、雨が降ってきた。歩くのはもう疲れた。

客引きは、こっちが弱っていると見るや、執拗に声をかけてくる。視線をあいまいにしながら、彼らをよけて歩く、歩く。

傍らのゴミ箱には赤字で「どん底」。ゴミ箱の主が、そういう名前のお店だから、仕方ない。つたの絡まった、「どん底」の入り口が、おいでおいでしている。


結局、僕達は「どん底」を回避し、近場のバーで豆のシチューとクスクスを食べた。存外にたっぷりしていて、しかも美味しかったよ。

注:居酒屋「どん底」に行ったことはないが、きっと悪くない店なのだと思う。行ったことはないが。

タクシードライバー

Photo: 基地のバス 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

Photo: "基地のバス" 2003. Tokyo, Japan, Sony Cyber-shot U10, 5mm(33mm)/F2.8, JPEG.

ここ暫く、文章を見るのも、書くのもイヤになった。何だって同じだろ、そんな気分になった。どれも同じようなもんだ。

蝕む孤独と不安、諦めと失望、ちょっとした勇気と期待、幸になることと失うこと、やがて忘れること。そんな人生の標本が見たければ、マーティン・スコセッシのタクシードライバーを観ればいい。


そういえば、高校生の時だったか、「タクシードライバーは面白い」と熱心に僕に言っていた友達はどうしているだろう。僕はそのとき、いつも生返事で、この映画を観たのはつい最近になってからだ。

こんなものを見ている高校生はよくないよ。遅ればせながら、そう思ってみる。