Photo: “Loco Moco.” 2010. HI, U.S., Ricoh GR DIGITAL III, GR LENS F1.9/28.
10数年前、僕が初めてアメリカに行って驚いたのは、その飯の不味さだったわけだが、今回のハワイでも期待を裏切らない不味いものを食べることができた。
ハワイのワイキキあたりの食事のレベルというのは、相当に高くて、それはつまり日本人の喉を通らないレベルの妙な料理というのはほぼ無いことを意味する。が、ハワイ名物とされる「ロコモコ」だけは、別だった。
僕以外のメンバーは殆どアメリカで生活していた人々だったので、ハワイに着いての第一食目は何の躊躇もなくフードコートに決定された。アラモアナのショッピングモールのフードコートには5、6軒のアレげな店が入っている。僕は比較的「害の少なそうな」ものを物色し、Panda Express の定食を食べる事にした。世界中、どこに行っても、中華料理だけはある一定の水準というものを、比較的保っていると信じているからだ。
多分、6ドルぐらいで炭水化物と、おかず2品を選ぶ。まあ、おおよそ想定通りの炒飯というかピラフというか、そういうものは、腹が空いていたせいか比較的美味に思われたし、油淋鶏のような鳥も、ブロッコリーの炒め物もまあまあで、アメリカ料理も普通になったなぁと思う。そして、友人の通訳殿が、嬉しそうに持ってきたのがロコモコだった。
僕にしても、ロコモコがハワイ生まれの料理であることは知っているし、日本で明らかにイシイ(成城ではない)のハンバーグを使用したと思われるロコモコを食べたこともある。
しかし、目の前に置かれた白茶けた胸塞ぐ奇妙な一皿は何だ。飯、肉、タレ、卵。目玉焼きの黄身は、白身に比して妙に小さく、奇妙に薄い黄色をしていて、そもそも米国内で半生目玉焼きなんて食べて大丈夫なのか?という疑念がわき起こる。だいたい、野菜とか、バランスとかが、全く考えられていない。あるいは、米を野菜の一種として捉える、この国の人々の目には、ある程度のバランスのとれた食事に見えるのだろうか?
中華のプレートが、存外食べられるものだったことに気をよくしていた僕は、好奇心から一口、「ハワイのロコモコ」というものをもらってしまった。通訳殿は、普通に食べていたし、むしろその懐かしい味に「これこれ!」と美味しそうだったのだ。
一口食べてみて、僕はアメリカ人が好きな味のエッセンス、のようなものをついに掴んだような気がした。マクドナルドのあの「肉」を沢山頬張ったときに、喉の奥に広がる、牛肉由来なのか何なのかよく分からないあのしつこい感じ。そこだけが取り出されて、強調されたようなタレの風味が、おそらくはアメリカに住んだものの郷愁をかき立てる、言ってみれば彼らにとっての「鰹だし」のようなものなのではないか。
とまでは考えなかったが、あまりにも、典型的なアメリカのまずい飯を無防備に食べてしまい、正直驚いたのだった。