だいたい、大きなカメラを持っていると、おばちゃんに記念撮影を頼まれる。あんなものを持っているんだから、写真が撮れるはず。芸術的な部分は別にして、確かにそれは正しい。実に国内外を問わず、記念写真はよく頼まれる。
夏の最後の日のような、その日はとても暑かった。御岳山の山頂、社の奥に立っていると、とても涼しい風が吹き抜け、汗が少し引く。そろそろ先を行こうかという所で、二人組のおばちゃんに呼び止められたのだ。
差し出された携帯で撮ってあげた。だいたいおばちゃん達というのは、「ここで撮って何の記念になるの?」というような、分かりにくい背景を選ぶ。今回で言えば、ただの雑木林にしか見えない背景。だから、経験的に言って、人を少し大きめに撮った方が、評判が良い。
おばちゃん達と別れた刹那、
「あなたたち、レンゲショウマよ、これご覧になった?」
と再び呼ばれる。
御岳山の夏の風物、レンゲショウマの開花時期はとっくに終わっていた。しかも、この夏の暑さだ。しかし、吹き抜ける風が、少し長く花を持たせたのかもしれない。社の片隅に、少し虫に食われながら、二輪のレンゲショウマが咲いていた。僕は多分、その姿を初めて見た。
「こんな所で、待っててくれたのね」
俯き気味に咲く花に、おばちゃん達のお陰で、気がついた。記念撮影にも良いことはある。石段で一休みし、小腹空きスナックみたいなものを分けて食べて、水を飲んでさて今度こそ行こうか。