湯気の向こう

結局、コーヒーは飲めるようにはなったが、それほど好んで飲むというというものでもない。ただ、冬の寒い空気の中では、一番相応しいような気もして、今のような季節になると家で飲んだりする。

湯気の向こうに、夜の橋の上を行き来する車のヘッドライトが流れる。バカみたいな家賃だと思いながら、この部屋にもう何年か住んでいる。不動産屋に案内されてリビングまで来た途端、そこから川の対岸まで見通せる景色が気に入った。その時は気がつかなかったが、ベランダから見る冬の夜の景色は、なかなか良いものだった。とは言え、ここにずっと住む気にはなれない。

今の仕事をしている間だけ、そう思いながら年月がたってしまった。都心の大抵の場所には直ぐに行けるし、週末はとても静かだ。早朝には、裕福そうなパワーカップルが、川辺をジョギングしている。人生のある期間、背伸びをして、世間の期待に応えながら、なんとかやっているような期間、過ごすのには良いのかもしれない。


コーヒーが冷め切らないうちに、飲みきってしまう。夜景を眺めると、何も成し遂げていないのに、何かを成し遂げたような気になるこの現象には、何か名前が付いているのだろうか?川面を渡ってくる冷気が、体の芯に到達する前に、部屋に引っ込むことにする。しかし、いつまで続けるつもりなんだ。自分に問うたところで、答えは分からないのだが。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です