大阪のとある街を歩いている。
お勧めのベーグル屋がある、という地元情報はしかし、明確な店の場所と名前が示されておらず、店の前にたどり着くのは容易なことではなかった。これは少し前の出来事であり、iPhone と GPS があまねく”鷲の目”を与える前の話だ。そして、ようやくたどり着いた店は、定休日だった。
行き場のないやるせなさを感じながら、とぼとぼと駅に戻る。広い県道とも、狭い国道ともつかない道を歩いていると、パチンコ屋に行き当たった。いや、正確に言えば、先に凄い看板が目に飛びこび、僕は思わず引き寄せられて足を止め、それがパチンコ屋の看板だったのだ。
デヴィ夫人来店。
パチンコ屋のプロモーションというのは、下手に予算が使えるだけに予想外の豪華さを醸していることがある。上野の裏道を歩いていたら、パチンコ・エヴァンゲリオンの宣伝で、本物の声優の誰だかがトークショーをやっていたのに行き当たったこともある。しかし、デヴィ夫人が来店するというのはどうなのか。パチンコ屋の来客層に、デヴィ夫人の来店は何かアピールするポイントがあるのか。デヴィ夫人は、パチンコ屋の営業で、一体どんなトークをするのか。観衆への呼びかけはやはり「あーた」なのか。
大阪在住でも無ければ、パチンコもしない僕が、実際にデヴィ夫人と出会うことは出来なそうだった。残念ながら、彼女の来店予定は半月ほど後の日付だったのだ。しかし、その看板だけで、もうお腹が一杯だったことも否めない事実ではあった。