わざわざ沢蟹を飼う人もあまり居ないとは思うが、僕は小さい頃、沢蟹を飼っていた。
家族で海に行った帰り、バケツに入れて連れて帰ってきた一匹の沢蟹。小さな沢蟹は、石と水を入れた洗面器の中で、だいぶながいこと生きた。
何を食べるのかよく分からなかったので、魚屋でアサリを幾つかビニール袋に入れてもらい、それを餌に与えた。両方の鋏を器用に使って殻をこじ開けて 食べた。表情は無いけれど、なんとなく喜んで食べているように見えた。それから、買い物について行くたびに、アサリを分けて貰って、食べさせた。
小さな洗面器から逃げるわけでもなく、薄暗い玄関の片隅で、ブクブク泡を吹いて、まあ可愛かったのだ。
小料理屋の軒先に、ガラスの器に入れられて沢蟹が居た。「新鮮さ」のアピールなんだろうか。そういえば、この間、生きた沢蟹が量り売りで食材としてスーパーで売られていたっけ。(なかなか凄い光景だった)
飼っていたものは食べられないと言うけれど、僕は別に沢蟹の唐揚げが食べられないわけではない。でも、ちょっと、僕にはこの店は無理だな。