八百屋でふと見ると、ダンボールに見事な紫タマネギが山のように積まれている。インド人の友人がいつも言うのは、
「インドのカレーは、紫タマネギで作る、これが一番大事。」
本場のカレーを再現するに最も重要なのは、凝ったスパイスや、高価なギーではない。最近、膨大な量をApple TV 4Kで鑑賞している「インドの屋台動画」の中でも、あらゆる料理で絶対に使われているのは、この紫タマネギなのである。そして、八百屋の肉売り場(何を言っているか分からないと思うが)には、今日は和牛のすじ肉が山盛り入荷している。しかもありえない、お手頃価格。
この状況から、本格インド風牛すじカレーという、文化的・宗教的に混乱た禁断のカレーを作ることになった。ヒンズー教徒に食わせようというのでは無いのだから、問題は無いだろう。料理にルールは(さほど)無い。
■材料 おおよそ5リットル分
- バター 自分が許せる量
- オリーブ油 鍋底がひたひたになるくらい
- 生姜 大1かけ みじん
- ニンニク 大4かけ 粗みじん
- ローリエ 5枚
- クミンシード 適量
- ターメリック 適量
- ガラムマサラ 適量
- カイエンペッパー お好み
- カルダモン 多め
- 岩塩 適量
- 黒胡椒 適量
- 紫タマネギ 大きめ2玉 粗みじん(飴色不要)
- 牛すじ肉 1kg弱(湯通し不要)
- トマト 大きめ4つ ざく切り(湯むき不要)
- カシューナッツ 100gぐらい
■作り方
- 大きめの鍋でバターとオリーブ油を適当に熱する。マハラジャの料理人はギーを熱する。
- ニンニク、生姜を炒めて香りを出し、ローリエ、クミンシード、ターメリック、カイエンペッパーあたりの熱で辛みを出したいもの、ホールの形のものなどを入れる
- 紫タマネギを放り込んで、ほどほどに炒める。飴色とかは求めない。
- 牛すじ肉をまとめて放り込んで表面に火を通す。塩も強めにしておく。(別にラムでもチキンでもかまわない。)
- 肉の表面に火が通ったら、トマトを投入。面倒な人はトマト缶でも良い。
- 鍋の容量いっぱいぐらいに(縁までという意味では無い)、水を加える
- 牛すじであれば、圧力鍋で加圧15分自然冷却。圧力鍋じゃない人は気長に煮る
- 煮ている間に、カシューナッツをすり鉢で根気よく砕いてペーストにしておく
- 自然冷却が終わったら、カルダモン、ガラムマサラ、黒胡椒など香りが飛びやすそうなものを加える
- カシューナッツを加えるとシチュー色だった鍋が、突然インドのあの色になる
- 仕上げに塩で味を調える。好きなら刻んだパクチーをどさっと入れて一煮立てしても良い
成城石井にギーはある。一瓶千円ぐらいする、、。だいたい、いつも視線を合わせてから、外す。日本でギーを使って料理するというのは無謀かもしれない、あるいは、京葉線あたりのそれっぽいお店に行けばもっと手頃に買えるのかもしれない。
なので、今回脂は気休めにオリーブ油とバターをまぜる。生姜はおろさないでみじん切り、ニンニクもみじん切りにした。インド屋台動画から察するに、そこには別に順番とかルールとかいうものは無い。香りが出てきたら、ホールスパイス的な空気感のあるものをぶっ込む。なんとなくターメリックとか、クミンシードとか、ローリエも試しにこの段階で入れて油で炒めてしまう。ついでに、黒胡椒とかも入れておく。
そして、このカレーのほぼ唯一のポイントである、紫タマネギを適当に刻み入れる。インド人のみじん切りは、みじん切りだけは、執拗に細かい印象がある。逆にここは和的な、わりと大きめな刻みで入れてしまう。どうせ圧力鍋なので、たいして結果は変わらないのだ。紫タマネギは通常、サラダの飾りなんかのイメージだと思うのだが、これに火を通してみると、香りもなんとなく違う気がする。タマネギを飴色に、と言うのだが正直そこであんまり味が変わる気がしないので、シナシナになったらもうOKとする。
主たる具である牛すじは、湯通しをして一回煮こぼす、とかしない。軽く水で洗ってそのままぶち込む。牛が嫌な人は、鳥でも、マトンでも、茄子でも入れると良い。肉の表面にある程度火が通ったら、トマトを入れる。インドではキロ50円とかそういう世界なので、水代わりに入れられているが、冬の日本ではそうもいかないのが残念。ちなみに、現地でトマトの湯むきなんてしてる気配は無いので、これも芯だけとって投入。別に缶詰のトマトでも問題無いが、味が濃い目(しつこめ)になると思う。
少し煮込むと、肉とかトマトとかから、謎の水分が出てくるので、あとは適宜水を追加で入れて濃度を調整する。ここまで全然塩を入れていないが、それは単に忘れていたというだけだ。
で、圧力鍋の方は15分加圧する。そうで無い方は小一時間ぐらい煮込む。そうして、煮込みが終わると、すでにカレーっぽい香りにはなっている。それと、なんとなく普通のタマネギとは違う香りもするだろう。ターメリックが入っていれば、見た目は既にカレーだが、更にスパイスを足していく。ガラムマサラで複雑な香り、カルダモンで深いインド的な清涼感、辛さは様子を見ながらカイエンペッパーで調整。辛さは旨さ、というロジックが心地よい人はカイエンをたっぷり入れて欲しい。ここまの作業で、香りは相当にカレーなのだが、見た目はシチューみたいな感じになっているはず。
仕上げに、煮込んでいる間に根気よくすり潰しておいたカシューナッツをドバッといれる。一混ぜ、二混ぜすると不思議なことレストランでよく見る「あの」インドカレーの色になる。そして不思議なことに、「あの」色の脂がういて来る。茜色、とでも言えば良いだろうか。
そして、仕上げの塩。インド料理というのは甘みを付けない代わりに、塩分というのが存外沢山入っている。味見をしていて、なんかインド料理にならねぇな、と言うときはすべからく塩を足すべきなのだ。味を見ながら、「おーインドだ」と思うポイントまでかなり思い切って塩を入れていく。インド料理であれば、岩塩の方が良いかもしれない。塩味が決まったら、完成だ。一晩寝かせるとか、そういう面倒なことは無い。そのまま直ぐに食べよう。
サラダ代わりに、残った紫タマネギの輪切りをそえ、ほんとはバスマティーライスとかなんだろうけど、そんなものは無いので、普通のお米で。インドでも、米の種類はその長さや品質から、もの凄く沢山あるので、別にだいたい米なら日本米でも問題は無い。