地下鉄の階段を出ると、もう人だかりがしていた。
少し気ぜわしく咲いてしまった今年の桜は、冬の冷たさが残る風の中に揺れている。
見慣れた堀端の景色は、桜の季節だけ、見違えるように華やかになる。
ライカ、ツァイス、キヤノン、ニコン、ローライ、カメラの展示場のようになったこの場所で、シャッターを切る手を休めて、ふと、頭上を見やると、とてもカメラでは撮りきれない色を見る。
この国に生まれて良かった、と思う。
桜のあるところ、どこだってお祭り騒ぎで、世界で一番うるさい場所に咲く花だけど、ファインダーの中の桜は、とても静かに咲いている。
匂い一つさせないで、黙って咲いている。