花見をしたことがない、という人が居たので、せっかくだからきっちり花を見に行くことにする。さすが、首都のど真ん中だけあって、派手にライトアップされた内堀の夜桜は綺麗だ。せっかくだから「ビールでも買ってあげようか?」と提案したけれど、さすがに歩きながら飲むのは嫌みたい。
頭の上をドームのように、桜が覆っている。「これは綺麗だなぁ」なんて言葉を、久しぶりに言った気がする。
そういえば、小さい頃に住んでいた家の直ぐ近くは、桜の植えられた長い長い遊歩道だった。僕はいつもそこを通って、バス停に歩いていたんだった。だから、桜の幹の独特のあの感じとか、若葉のそよぐ音とか、そういうものがとても懐かしい。驟雨に濡れた新緑の並木道とか、でかい毛虫が落ちてきたこととか、そんなことが次々思い出される。でも不思議なことに、咲いていた花の景色だけは、思い出せないんだ。