向こうのカウンターで、一人客の取り留めの無い話を、初老のヘッド・バーテンダーが聞いている。
ホテル最上階からの冬の夜景は、ガランとしていて、少し寂しい。
ソファーに沈んで、そんなバーの景色を眺めている。
冷たいグラス。
コストと合理性を考えるなら、手で真円に削った氷は意味がないかもしれない。酔うためだけなら、もっと安上がりなやり方はいくらでもある。ただ、そうではないお酒を飲みたい、そういう日もある。
オヤジのお中元洋酒だと思って、飲んだことがなかったカミュ、という名前のブランデーは、存外悪くなかった。
蝋燭の炎に照らされた透明な氷と、磨き上げられたグラスは、飲むのが惜しいほど綺麗で、眺めていると優しい琥珀色の香気が、立ち上ってくる。
いつの間にか、お客がまばらになっていた。カウンターの客は、まだ何か話している。
僕は、少し氷の溶けた残りのお酒を、ゆっくり飲んだ。