偶然泊まったホテル松葉川温泉は、さっぱりとして、良いホテルだった。僕たちに用意された部屋は(その日、宿は割と混んでいて、最後の一室だっ た)、三角屋根の形が分かる最上階。優に5メートルはある天井と、ゆったりした内装。山奥のこんな場所に、周囲の風景に似合わないモダンな内装は、東京帰 りの若い建築屋の二代目が、腕試しに設計したような風情だ。
バルコニーに通じるドアを開け、ソファーに足を投げ出すと、ドーッという川の流れの音が、耳に飛び込んできた。少し上流には滝がある。コンクリートで整形された、一直線の滝。
宿の心づくしの夕食が、僕はいたく気に入った。カチカチに冷えたジョッキで生ビールを傾けながら、川魚の佃煮をつつく。松葉川を眺めるレストラン。 広い食卓に、山の食材をふんだんに使った料理が並んだ。品数は多く、どれも、見た目で誤魔化さずに、ちゃんと美味しかった。柔らかく炊かれた蕗には、さっ き川で嗅いだ土の匂いがした。
僕たちに給仕をしてくれた女性は、とてもいい笑顔をしていて、ビールのお代わりを頼むと、恥ずかしそうな微笑みを浮かべた。
「なぁ」
「ん?」
「高知ってさ、綺麗な人多くないか?」
「っていうか、いろいろな意味で魅力的な人、だろ?」
「そうそう、笑顔とかさ、いいんだよね」
静かなレストランで川の瀬を聴きながら、そんな会話をした。
是非、松葉川温泉へ来てください
あの宿はまだあるんでしょうか?
圧倒的な存在感をみせております