君の月はどっちに出ている?

そろそろ十五夜かと思ったら、そんなものはとっくに終ってしまったという。僕は昨日、タクシーの運転手と、そろそろ十五夜ですね、なんて話したばかりだというのに。

電車の中の蒸し暑い空気を、ガラガラ言う冷房がさかんに冷やしていた。僕の目の前では、少し太めの女性が、一緒に帰る後輩のバイト君を口説いてい る。あたりさわりの無さそうな会話のはしばしに、なんとも言えない誘いのフレーズ。もっとも、バイト君には、あんまりその気はなさそうだ。

外を見ようと、頭を巡らせると、隣に座ったおっさんと目があった。せせこましい駅の風景が、汚れた窓越しに見えた。ドアが閉まり、どこかに向かって電車が動き出した。車内から月は見えない。

君の月はどっちに出ている?

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