冬の冷気

冬が体にしみ込んでくるのを感じるこの時期は、僕にとっては容易い季節ではない。

冬の冷気。冷たく凍えた空気を吸い込むと、鼻の奥にキンと響く痛みを感じる。自分が生き物であることも忘れてしまう、人工的な生活。それでもこの季 節、それを感じる瞬間が必ずある。僕は比較的、季節の変化に従って、リズムを合わせながら生活している。好むと好まざるとにかかわらず、そういうものにと ても影響を受ける。
「季節の無い国に住んだらどうなるの?」と訊かれることもある。どうなるのだろう。季節感と言うのは、街のデコレーションとか、人々の装い とか、そういった世間の雰囲気によく表れる。テレビの CM が秋一色に染まり始めて、秋だなー、と思うことだって、多分にあるだろう。しかし、そういうものとは関係ない、ある種のリズム。

樹は、夏の間に葉に蓄えた葉緑素を幹に吸い上げ、紅葉する。この季節、人も、大切なものを中のほうに引っ込めてしまう。季節は巡り、僕も同じようなことを繰り返しながら進む。


出掛けに目にした初秋の祭り。露店の煙と、喧騒。帰りのバスから見た同じ場所は、もうひっそりと静まり返っていた。祭りの跡形は、何一つ残っていなかった。透明な空気が、黒々した闇に満ちた。

長い冬が来る。とても長い。

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