電車の中で、ふと息苦しくなった。
焦りとも、不安とも、苛立ちとも付かない気分が、気分と呼ぶにはあまりにもはっきりと僕を襲った。
行き場のない感情は、春の嵐のように突然、来た。
目の前のオヤジは、僕に覆い被さらんばかりの勢いで、立ったまま寝ている。僕は鞄とコートを抱えて、車両のはじっこの窮屈なシートに身を沈め、汚れた窓から隣の車両を眺めていた。
車内の空気はよどんでいて、日中の暖かさがイヤな感じのぬるさになって残っていた。
疲労と、倦怠を引きずった深夜の電車は、そんな感じだった。でも、それがあの息苦しさの原因だったとは思えない。
僕は、季節にとても左右される。
電車の中で感じた息苦しさは、閉じこめられた冬の季節が終わって、春が来たことに、僕の体が反応したせいかもしれない。