僕の場合は、RICHO GR DIGITAL III でフォーマットしてしまったSDカードと、Pandora Recovery の組み合わせで全てのデータを復旧できた。デジカメによって、フォーマットや書きこみの実装が微妙に違ったりする可能性もあるので(FAT32はFAT32だろうが)、一概に Pandora Recovery が最も有効とは言えないが、他のソフトではファイル長を正しく推定できないなどの問題があった。
僕が初代 GR DIGITAL (GRD) を使い始めてから 2年で 3,945枚を撮影した。今回、GRD II は見送って、GRD III に一段飛んだ。
GRD と GRD II は、多くの変更点はあるものの(ボディは全くの新設計)、基本的にはマイナーバージョンアップと言えなくもない範囲の変更であり、無理に買い換える必要を 感じるものではなかった。しかし、GRD III は見た目こそ GRD/GRD II とほぼ同じだが、中身は完全に違うカメラと言って良い。
初代 GRD がごく控えめで、ごく普通な第一印象だったのに対して、GRD III は最初から非常に強い印象を受けるカメラだ。初代 GRD ではマクロフォーカスの遅さや、低光量下での扱いにくさなど、カメラの弱点をカバーしつつ使わなければならない局面があった。GRD II になっていささか改良はされたが(逆光条件では GRD の方が写りが良いとも言われる)、本質的には同じ注意を要するカメラだったと言える。しかし、GRD III は、GRD / GRD II の弱点をことごとく克服し、低光量にも逆光にも強いカメラになった。
GRD II に比べて、倍の感度となったセンサの画素数は、増えていない。スペックベースの無意味な画素数競争に決別した点でも、評価できる。GRD は現在、幸運にも(それはフィードバックと製品改良の積み重ねの結果であるのだけれど)カタログスペックを気にすることなく、製品をつくることが可能なポジションにある。レンズとセンサの性能向上分を、感度に回すことができるようになった結果、外光での撮影であれば ISO64 という、コダクロームかというような感度で撮ってくる。普通の野外撮影であれば、ノイズリダクション処理すらかからないという、光学機器として真っ当な方 法で、高い画質が実現されている。GRD で不満だった、地味なデジカメっぽい画像は、衣をはぎ取ったようにクリアで、鮮烈な画像へと変化した。画像処理エンジンの味付けではなくて、光学機器とし ての味が画に出ている点で、既存のコンパクトデジカメというクラスを超えた製品であると思う。
GRD はスナップを指向したカメラであり、その動作速度は重要だ。もともと、「サクサク動く」のが特徴の GRD シリーズだが、GRD III の操作感の速さは特筆に値する。実際に触った人は皆、「速い」という印象を持つようだ。フォーカス速度、レリーズラグ、書きこみ速度、画像表示速度、サム ネイル表示速度、メニューの動作。あらゆる状況に於いて、もたつく、あるいは、ラグを感じる、という瞬間が無い。また、GRD III は、レンズが大型化したにもかかわらず、起動時間は遅くなっていない。起動時間は、2台を並べてスイッチを入れてみると、GRD の方がわずかに速いように見える。
デザインは GRD/GRD II を継承しており、並べてみると GRD III の方が一回り大きい印象を与える。ただし、大きさを除けば、知らない人がその形状の違いを指摘するのは難しい。まず目に付くのは、大型化したレンズ部分 だ。ここは、握ったときに右手の指先にリングがやや干渉し、握り心地の変化に繋がっている。
フロントフェイスの GR のロゴは、印刷から彫刻に変更された。ここでコストダウンではなく、アップしているのは感心する。底面のゴム脚の面積は大きくなっており、スピーカー位置 がグリップ後部からグリップ前部に移動されている。背面のボタン数は変更が無いが(Fn として使えるボタンが 2つに増えたが、方向キーとの兼用なので物理的な数は同じ)、液晶画面が大きくなったため、全体的に小さくなっている。ここは、トレードオフと言える。 GRD II で光沢処理に変更されたボタン類は、再びつや消し処理に戻されている。アジャストボタンは回転式からレバー式に変更された。アクセサリシューも液晶サイズ の関係でやや上に移動している。デザインバランスという点では、GRD のバランスが最も完成形に近いが、今日的な性能のためのトレードオフとしては、許容できると考える。
GRD III を見て誰もが口にするのが、この背面液晶の美しさ。これは、GRD と比較した場合、際立っている。外光下でも問題の無い明るい液晶で、通常のデジカメの倍の解像度の高精細パネルを使用し、更にsRGB 色域をカバーする発色。下手なディスプレイで見るよりも美しく撮影データを見ることが出来る。GRD III を思わず買ってしまう人の中には、この画面で撮影データを見てしまったから、という人も多そうだ。
ボディは APS サイズセンサの一眼を使い慣れた人には大きいが、銀塩一眼と比較するとほぼ同じ。その中に、フルサイズセンサや手ぶれ補正を組み込んだのは、たいしたもの だ。操作体系は直観的で、動作が速く、メニュー階層も浅い。マニュアル無しで一通りの操作が可能。デジカメ的にどうしても必要になってしまうボタン類 (ISO, ホワイトバランス)は、きちんと1機能1ボタンで用意されているのは好印象。ドライブモード、露出補正のボタンも、右グリップ上にまとめられている。その 結果、グリップ構造やボタン配置のテイストは、一眼レフというよりも、カムコーダに近くなっている。ボタン操作をしながら絵を作っていくデジカメの操作形 態を考えると、これはこれで良い。旧来の一眼レフの配置との互換性を重視した、他のメーカーの配置よりも、デジタルという観点では、このアプローチは正し いように感じる。新しい撮影方法には、新しいインターフェイスが必要だ。データ保存で言うと、圧縮 RAW が使用できるのは便利で、通常は圧縮 RAW のみで記録している。圧縮と言ってもデータは可逆方式であり、メーカーの Web 上の説明によれば、通常の RAW との再現性等の違いはないという。RAW 現像ソフトウェアとの互換性も問題ないようだ。どうしても撮影枚数が多くなってしまうデジカメで、データ量が 7割程度になるのは助かる。
最後に、気になる点。まずシャッター音とミラーショックについて。この二つについては、あまり褒められたものではなく、この価格帯のカメラとしては 物足りないと感じる。バタッというようなシャッター音は、その音に何かの愛着を抱くという類のものではなく、質感は低い。操作ダイヤルは軽めの印象で、慣 れるまでは、意図せず露出補正や絞り変更がかかってしまう場合があった。また Nikon のダイアルのような「押し込む」というアクションは無い。バッテリの持続性は、寒冷地でも満足のいくものだが、それでも使い方次第では 1日持たないので、予備のバッテリは欠かせない。カメラの向きを検出するセンサについて言うと、カメラの設定を見ようとレンズを地面方向に向けた場合に、 縦位置と誤検出する場合があり、少々不便を感じる。また、CF スロットと、MS スロットが一つずつ装備されているが、これは CF x2の方が嬉しい。もはや SONY だから MS で仕方ない、とは思えない。