湯気の向こう

結局、コーヒーは飲めるようにはなったが、それほど好んで飲むというというものでもない。ただ、冬の寒い空気の中では、一番相応しいような気もして、今のような季節になると家で飲んだりする。

湯気の向こうに、夜の橋の上を行き来する車のヘッドライトが流れる。バカみたいな家賃だと思いながら、この部屋にもう何年か住んでいる。不動産屋に案内されてリビングまで来た途端、そこから川の対岸まで見通せる景色が気に入った。その時は気がつかなかったが、ベランダから見る冬の夜の景色は、なかなか良いものだった。とは言え、ここにずっと住む気にはなれない。

今の仕事をしている間だけ、そう思いながら年月がたってしまった。都心の大抵の場所には直ぐに行けるし、週末はとても静かだ。早朝には、裕福そうなパワーカップルが、川辺をジョギングしている。人生のある期間、背伸びをして、世間の期待に応えながら、なんとかやっているような期間、過ごすのには良いのかもしれない。


コーヒーが冷め切らないうちに、飲みきってしまう。夜景を眺めると、何も成し遂げていないのに、何かを成し遂げたような気になるこの現象には、何か名前が付いているのだろうか?川面を渡ってくる冷気が、体の芯に到達する前に、部屋に引っ込むことにする。しかし、いつまで続けるつもりなんだ。自分に問うたところで、答えは分からないのだが。

名言ソムリエだらけの世の中だから

Photo: “Do not flash cement.”
Photo: “Do not flash cement.” 2017. Tokyo, Japan, Apple iPhone 6S.

名言ソムリエだらけの世の中だからこそ、自分の意見を持つ意味が有る。

blogやtwitterの炎上だってそうだ。自分がその場所に居たわけではない人間が、沢山の意見をいう。言うだけならいくらでもできるから、そして、そこに納得は無いのだから、ずっと続けていられる。

そこに立って、その時に自分がどう思ったか。いろんな場所に立って、稚拙でも自分の感じたことを書いていきたい。そう思う。


ここに、「セメントを流さないで下さい」という張り紙がある。銀座のとあるビルの男子トイレである。もう、午前3時ぐらいだったように思う。

トイレに「セメント」を流すような人間が、張り紙ごときで、思いとどまるだろうか。僕が気になったのは、まさにそこだった。

※2019年のメモから。

 

台湾、煤けた風景

From the windowsill in Taipei
Photo: “From the windowsill in Taipei” 2015. Taipei, Taiwan, Richo GR.

台湾の建物は皆不思議と、見事に煤けている。

特に可も無く不可も無い、ビジネスホテル。程よいホスピタリティー。

※2019のメモより。