思いつきの記事一覧(全 906件)

The mind is flat.

Photo: “菊花”
Photo: “菊花” 2001. Shinjuku, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EL-2

The mind is flat. (邦題は、”心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学”)読み進めるほどに、諸相がつながる、そんな本に毎年1冊くらいは出会うが、今年それを体験したのはこの本だった。東洋の釈迦の教えも、西洋のマインドフルネスも、心の表層に生成される感情と反応への、正しい対応のあり方を説いている。そんな感情・反応といった、意識の「表層」として西洋の科学が捉えてきたものが、実は、意識「そのもの」である。それがこの本の冒頭で語られる結論であり、西洋科学がようやく東洋に追いついたのか、という気分になる。


目新しくは無い。日本人として、既に知っている事を、科学によって説明されている。そういう既視感がある。この本が刊行されたのは2018年で、これはGPTが産声を上げたばかりの時期だが、この本の序章の恐ろしさは、今だからこそ一般の我々にも肌身で分かる。LLMがやっている文章の認識と生成。これは、(もの凄く端折って言えば)文章の直前のコンテキストとそこから取り得る可能性を、既知の学習データから生成することで、何故か「知性」の存在を感じるに足るリアルさをもった回答を得ることができる技術だ。それは、何故なのか?深層心理も、考える仕組みも、意識も、持っていないアルゴリズムが、なぜそのような真に迫った回答を返してくるのか。


「それは、人の意識が同じアーキテクチャだからだ。」という恐ろしくも単純な結論が、序章で既に浮かび上がっている。脳のモデルをプログラムの形で実装することが失敗したのは、そもそも我々のアウトプットが、コーディングされたルールのような系統だったものではなく、ニューラルネットワークで示されるような、入力に対する反射的なアウトプットである事に原因がある。もちろん、我々の身体には、脳のカーネルと呼べるような永続的な部分も有るのだろう。例えば、感覚器官との接続などのBIOSのような部分を担うところは、確かにプログラムのような、コードのような要素であり、ハードコードされているようだ。しかし、「個」のようなものがコードのように脳の中に存在している可能性は低い。意識は、脳のインフラの上に浮かんでは消える(KillあるいはExit)アプリケーションなのではないか。その結果のいくらかは、永続的記憶に経験値としてコードされ、大半は忘れられ(パージ)ていく。そんなモデルの考え方が、いとも簡単に立ち上がってくる。

だから、AIがシンギュラリティになる。のか?そこまでは、よく分からない。しかし、この本で語られているモデルが突きつける、冷たい刃のような納得感は、拭いがたい。

Light Room Classicをローカルストレージ前提で使う

Photo: “Yosakoi festival.”
Photo: “Yosakoi festival.” 2006. Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/35, Kodak 400TX.

だましだまし使ってきた、最後の買い切りライセンス版 Adobe Light Roomが、ついにiPhoneからの読み込み中にメモリーリークで返ってこなくなった。写真の枚数が万単位になっている以上、いつかは覚悟していたが。機能面では今のバージョンで何の不満もない、このページで使っている写真は、ごく軽い色調やグレインノイズの調整を行うだけなのだ。幾つか、Adobeオルタナティブも試してきたが、自分の使っているディレクトリ構造に合わせて仕分け出来なかったり、そもそもが同じだけのスケールに対応できなかったりして、Adobe一日の長というか、軽く10年の長を感じただけだった。


Amazonかヨドバシで一番安いサブスクリプションライセンスを買おうと思ってレビューを見てみると、いくつもの罠が。まずフォトプランじゃないと、ローカル実行のLight Room Classicが使えない。危ない、自分の用途的に、意味の無いものに手を出す所だった。

しかし、1TBオンラインストレージ付きのフォトプランは、ノーマルのLight Roomに比べて倍の価格。ぐぬぬ、と思いながらほぼ買いかけたのだが、念のため、試用版で今の写真枚数で問題無く読み込めるか確かめようと考えた。で、Adobeのサイトを見ていて気がついた。フォトプランが2種類ある、そして1TBと、なんと20GBのプランというのが選べる。Amazonのレビューで書いてあった「Adobeのサイトだけにある安いプラン」というのはこの事だったのか。

そう、Adobeのサイトには、オンラインストレージが20GBだけのプランで、月1,000円を切るプランがあるのだ。プライベートで使うのだから、データの受け渡しに使うオンラインストレージは全く不要。早速試用開始。


無事に読み込めた、流石に企業の現場で鍛えられてるだけあって、スケールする。新バージョンは多機能になっていて、AIでマスク生成とかやると、激重いのだが、色調整以外の加工はせずカタログ整理なら古いMacBookでも実用レベル。しかし、プライベートでもAdobeの軍門に再び降ることになったか。

シリコンバレーの凋落と、Uberの搾取。あるいは、BigBet.

Photo: “Big Bet from BURGER KING.”
Photo: “Big Bet from BURGER KING.” 2023. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

以下は、2020年に書いたメモから。時間は経過したけれど、基本的に感じていることは変わっていない、どころか強くなっていると思う。


少し前に何かのオンラインセミナーを見ていて(近頃はなんだってオンラインセミナーだ、とても助かる)、シリコンバレーで働くをテーマにしたパネルディスカッションがとても面白かった。ビッグテックで働くキラキラライフ、みたいな内容かと思ったら、パネラーの中にシリコンバレーは将来デトロイトみたいになる、と断言するアメリカ人が居て面白かった。

実際、シリコンバレーから他州に本拠を移す企業は増えているし、新しく注目されるテクノロジー企業は、米国が本社ではなかったりもする。それはともかく、彼はシリコンバレーが見捨てられる一つの理由として、それが生み出した経済の「業」について言及していた。曰く、当時シェアリングエコノミーの輝ける星だったUberを、一握りのテックが儲けるだけの搾取の仕組みだ、と言い切っていたのだ。

Uberは、人生はお金に変換可能だ(残念ながら、その逆は無い。)、という事を分かりやすくデジタルに現出させる。Uberを、お金がもらえる位置ゲーと捉えられる人にとってはなかなか良いだろう。そうじゃなければ、厳しい。街を急ぐ、コミュニティーサイクルにまたがった自営業者の姿を見ながら、ある種の寒々しさを感じるのは、僕が十分にテックの明るい未来を信じられていないからだろうか?


こうしたサービスの捉え方は、その人の立場によって違うだろう。時間は無限にあって、それを換金することが、とても割の良い取引に思えるなら、つまり一般的に言えば十分に若い人にとってなら、自由で選択的な働き方として、魅力かもしれない。しかし、何の経験値も残らない、何のロードマップも無い、使う側からすれば、無限に取り替えが利く。いかに洗練されたシステムが構築されていたとしても、本質的には代替可能な労働力を効率よく使うというのが、鍵になってしまう。

もちろん、そういう種類の労働は無数にある。ただ、それをテックが追求したときに、恐ろしく逃げ場の無いものができあがってしまうのではないか。それは恐らく、理想と、善意と、相当な無関心、あるいは想像力の意図的な欠如によって運営される事になる。なお悪いことに、利用する側にとっては、とても便利でコストパフォーマンスは高いに違いない。


ーーー2023年。初めて、Uber eatsを使ってみる。家までバーガーキング(徒歩圏には無いのだ)のBigBetを運んできてくれた青年は、恐ろしく感じが良くて、180センチはありそうな堂々とした体躯だった。完璧なコンディションで届けられたワッパーを受け取りながら、とはいえ、Uberをやることは2023年現在、まだ十分にクールな事なのかもしれない、とも思った。