思いつきの記事一覧(全 906件)

今半

Photo: “Sashimi dish at Imahan.” 2024. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.
Photo: “Sashimi dish at Imahan.” 2024. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

ちゃんとしたものを食べよう、そういう事で企画をして、不定期に有志3名が集う。万札を握りしめて、一度は行ってみようという名店を訪れるのだ。

人形町今半は、東京の人には割と馴染みのある店名だと思う。弁当なんかは、ちょっと景気の良いミーティングなんかでお目にかかったりする。しかし、本店の夜ともなれば、昨今は予約もずいぶん先まで埋まっている。個室のみで焼きの担当が付くわけで、そもそもキャパに限りが有るのだ。

さて、予約はどのコースにしましょうということで、刺身も付いた一番高いヤツにしよう、という事になった。正直、別に今半で刺身を食わなくても、とは思ったが、ここは後輩に従ってみようと思う。僕にも、そういう気分が湧くようになったのだ。


果たして、先付けの器も驚いたが、刺身の盛り付けも大変美しかった。海老も鮪も、そして器も昭和の時代から抜け出てきたような、朱の美しさだ。日本料理を食べる嬉しさは、こういう所にあるんだと思う。コスパとか、タイパとか、何に対してのPerformaceを求めているのか。世界にちゃんとしたものは、やっぱり必要で、ちゃんとしたものを作るのは手間と時間と、つまり金がかかる。

〆の挨拶、お願いできますか。

忘年会的色の濃厚なディナーで、僕は何のプレッシャーも無く、白身魚のカルパッチョなどを食べていた訳だが、いきなり耳元でそう言われて、ええっ、という気分になった。いや、他に居るでしょういろいろ。

「この場での役職最高位なので、、」

えー、そうなの。。


ついにそんなことになってしまったか、と思ったその時から5年半ほどの年月が過ぎた。空疎なスピーチを(なるべく短く)することにも、慣れた、いや、慣れない。形式のばかばかしさも、形式の安心感も両方分かるようにはなった。それでも、そういう茶番は他の誰かにお願いしたい。そういう気分は、何年経っても変わらないのだ。

1997年、MIDIデータの接続

Photo: “LIFE-fluid, invisible, inaudible…” 2024. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.
Photo: “LIFE-fluid, invisible, inaudible…” 2024. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

東京都現代美術館で開催の坂本龍一の展覧会に、誘われて行ってみた。年寄りしか来てないんじゃ無いか、そんな予想はあっさり裏切られて、20代を中心に若い世代がマジョリティ。皆、坂本龍一を聞いていたのか?

ツアーの感想をMailing Listに投稿して、返事をもらったことを、かなり鮮明に覚えている。1997年の話だ、それから、なんだか左寄りにどんどんなっていって(元々、そうだった、という話はあるが)、ピアノソロのツアーを回っていたりして、というのを、遠く片目で見つつ、あまり聴かなくなった。

いや、Little Buddhaの日本版サントラに入っているAcceptanceだけは、自分のプレイリストに常に入っていた。川辺を走りながら聴く、終末の独りの静謐のような、その曲は自分の気分にとてもよく合った。


展示はインスタレーションで、音がテーマだから1つ1つ見るのに、時系列というか一定の時間が必要で、霧の展示にたどり着くまで2時間近くかかった。会場全体を通して、意地でも戦メリが流れていないのは、それはそれで良かった。そういう展示会じゃ有りません、というキュレーションなのだろう。The Sheltering Skyがフロアを超えて、響いていた。

会場の出口手前の人だかりで足が止まる。YAMAHAのMIDIピアノが鳴っている。ホログラムのような、ハーフミラーにボンヤリと人影が映り、手の動きに合わせて鍵盤が沈み込む。展示は、坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》

ここだけ、空気感が違っている。奇妙な、葬式のようなと僕は感じた。1997年の彼の演奏データが再演されている。録音とは違う、四半世紀前のMIDIデータが、2024年に実際のピアノをライブとして奏でている。

アーティストとは?パフォーマンスとは?データとは?そういうインスタレーションなのかもしれないが、会場に浮かんでいたのは、もっと生々しいというか、思いがけずファンだったアーティストの遺影に触れてしまったような戸惑いと、感情の揺さぶりと、そんなものだった気がする。


帰り道に、偶然立ち寄ったおでん屋は美味しかった。餃子まき、というものを初めて食べた。