真夜中の水槽には、大きなスッポンが泳いでいた。
毎夜怒鳴り合う酔っぱらいをガラス越しに眺めて、彼には昼もなく夜もない。
綺麗に飾り付けられた見栄えの良い水槽が、ただの檻であり棺桶であったとして、それを眺めている僕と彼の間に、どれほどの違いがあるだろうか。
食用、ではないんだろうな、ここはバーだし。
写真と紀行文
真夜中の水槽には、大きなスッポンが泳いでいた。
毎夜怒鳴り合う酔っぱらいをガラス越しに眺めて、彼には昼もなく夜もない。
綺麗に飾り付けられた見栄えの良い水槽が、ただの檻であり棺桶であったとして、それを眺めている僕と彼の間に、どれほどの違いがあるだろうか。
食用、ではないんだろうな、ここはバーだし。
ある本を読んでいて、人には二つの誕生日があることを知った。
自分が生まれた日が最初の誕生日。自分のことが理解できた日が二番目の誕生日。それをセカンドバースデーと言うらしい。
誰でも最初の誕生日はもっているけれど、二番目の誕生日はどうだろう。僕はまだ、二番目までいっていないような気がしていて、でもそれはちょっと近いような予感もしている。
テレビでよくやってる、不振の温泉宿を建て直せ!みたいなプロジェクトで立て直された温泉宿にいって来た。別に狙ったのではなくて、たまたま。
ベースになっている建物は古くて、階段なんか、「俺は酔っ払ってるのか?」と思う傾き加減だが、目に見える部分は一応リフォームされていて、そんな に悪くない。畳の上にダイニングテーブルを置くとか、ベッドをしつらえるとか、テレビ写りはともかくとして、本当にそんなの居心地がいいの?と思ったのだ が、これもそんなに悪くない。
温泉と食事にフォーカスする、という方針になっているらしく、この二つはちゃんとしている。大浴場のほかに、いくつか貸切の露天風呂があって、予約も何もなく、空いているところがあれば内側から鍵をかけて貸切にできてしまう。
深夜、ほかの客は早寝と見えて、まるで人影が無い。波の音を聴きながら、独り占めの湯船。お湯はかなり熱くて(源泉が 90℃以上なのだ)、100数えるのが限界。
ピリピリしながら浸かっていると、洗い場も含めて吹きさらしという豪快なつくりなので、夜の気配をとても近くに感じる。こんなに静かな温泉は、四万十川を旅して以来か。
建物も料理も、高い料金をとって泊まらせるところには、それはかなわないのだが、スタッフが皆親切でやる気があって、マイナスをカバーしようという 気位がある。僕はどちらかというと、この手の再生プランみたいなものに対して、疑わしく見てしまうのだが、ここは頑張っていて良いと思った。
もちろん、施設より温泉より、なによりも、気の合う人たちと一緒に来ているから、楽しい、というのが一番大切なことなのだけれど。