フォトエッセイの記事一覧(全 320件)

考えたバラバラの事

Photo: “Piano and city view.” 2023. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.
Photo: “Piano and city view.” 2023. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

静かに自分に向き合うにしても、もはや中身は空っぽなのかもしれない。

新しいテクノロジーに追いつこうとしても、もはや新しい酒を入れるべき革袋ではないのかもしれない。そういうFAQ的な事は、もう2000年前に書かれていたわけだ。入学式で言われた、新しい酒には新しい革袋を、そんなセンテンスの意味は、中学生自分には分かりはしなかった。今になれば、分かる。人間の歴史の短さを考えれば、数千年ごときで人の本質が変わることもない。ただ、テクノロジーはいきせききって、歴史の終末を見せようとしてくる。


部屋には幾つかの寺社で買ってきた御札があった。まったく関係ないイベントで杯と酒が贈られてきて、どこで手に入れたか分からない小皿も丁度あった。巡り合わせというか、そういうことだから、世界をハックするトーテムのようなものとしてそのアイテムを考えてみなさいという事か。水と、酒と、米と、塩を供えてみる。気分は悪くない。


Spotifyのレコメンドエンジンが、がディジリドゥーの音を奏でる。20年以上前に、先輩がオフィスで演奏していた。そういう事が許されていた、ITの黎明、ではないが草創期だった。先輩の感性とか、世間に対する態度とか、そういうものが、ずっと先を進んでいたことは間違いない。しかし、先を進みすぎれば、それはそれで受け入れられず、繊細な人は壊れてしまう。

もう、自分の中にあることだけを、ただ書いていくことでこの先を過ごすというのはどうなんだろうか。

旅先で、

Photo: “Bridge and river.” 2020, tokyo, Japan, Apple iPhone XS max.
Photo: “Bridge and river.” 2020, tokyo, Japan, Apple iPhone XS max.

旅先で、地元の人の日常を横から眺めると、ここに生活と人生が流れている感慨がある。ずっと昔から流れていて、自分が立ち去った後も、流れ続けていく。

東京観光に来た人は、遊覧船から僕を眺める。僕が散歩している姿は、東京の水辺の風景の一部だ。そうして、そういう感慨を巡らしながら、僕と僕の周りの風景を見るのだろう。

誰でも自分が物語の主役のつもりだけれど、誰もが脇役でもある。いや、脇役ぐらいが丁度か。

春節

Photo: "Tokyo Tower." 2017. Tokyo, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujinon XF23mm F1.4 R
Photo: “Tokyo Tower.” 2017. Tokyo, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujinon XF23mm F1.4 R

日本は、今頃お祝いかな?

スウェーデン人から、あまり要領を得ないLINEが来る。お祝い?何のことだろう。そうか、春節みたいなもののことを言っているのか。いや、日本はあまり祝わない。スウェーデン人の誤解だ。確かに、割と多くのアジア圏で、旧正月は祝われる。過去への決別というか、執着の無さという点で、アジアの中でも、現代の日本はやっぱりちょっと違っている。


夜、集まりが終わって坂道を少し歩く。土地勘が無いので、家の方向に行っているのか、とんでもなく外れているのか、よく分からない。それでも気分良く歩ける。よく後輩と、何キロも意味も無く夜の道を歩いた。こんな冬の終わりみたいな時期も、歩いた。寒すぎて、ドンキでパーカーを買ったりした。

今日は、一人で歩いている。際限なく歩くわけにも行かないので、信号待ちをしていたイカツい漆黒のホンダの個人タクシーに、手を挙げた。


「今日は、陽気が良いですから、人が多いですね」

初老、と言って良い運転手は、気さくに話しかけてきた。この仕事は一期一会だから、お客には必ず一言話しかけることにしている、と、元自衛官の運転手は言っていたな。そんな事を思い出す。彼も、今では某区のタクシー協会の理事になってしまっている。最近連絡したら、理事はあまりタクシーには乗らないらしい。

少し乗って、突然

「今日は東京タワー見られました?」

と訊いてくる。いや、今日は東京タワーを見てない。日々のほとんどは、東京タワーは見ない生活だ。

「春節でね、今日は真っ赤になっているんですよ」

そう言って、1分も経たずに、ビルの谷間からちらりとタワーが見えた。予想と違って、全体が赤いのでは無くて、大きな赤い斑点が、タワーの輪郭を浮かび上がらせていた。

そうか、中国正月か。台湾華語でも勉強するか。