かっぱえびせん 紀州の梅

深夜のオフィス。外は梅雨のまえぶれを告げる、生暖かい雨。300平米ほどのフロアに、まばらな人の気配。肩までの高さに仕切られたパーティションの一角に座り、ディスプレイを見つめる。蛍光管がたてる微かな高周波。

周囲に置かれた、数十台の PC やサーバーから聞こえる、「フーン」という独特の音。空冷ファンや、ディスクプラッターが回転する音だ。夜はマシンが元気。

時々、自分自身が立てるキーボードの音がする。

やがて、同僚の人が、パリパリとポテトチップを食べる音。パリパリ、パリパリ。

別の人がビニールをガサガサやる音。プシュー、パカッ。ん、それは「かっぱえびせん 紀州の梅」(缶入り)だな。

みんな、腹へってるのね。

とりあえず、エッフェル塔

Photo: 1995. Paris, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38
Photo: 1995. Paris, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

夜のパリ中心部は人影がない。日本の繁華街のように活気のある街を想像して、遅くまでうろうろしていたら、静寂の中に取り残されてしまった。店は、営業時間が終わるとさっさと閉めてしまうため、街はあっという間に閑散とする。

とりあえず、エッフェル塔に行くことにした。

エッフェル塔は、それこそ街の至る所から見える。だから、塔を目指して歩いていけばいつかはたどり着くだろうと考えていたが、甘かった。歩いても、歩いても近づかない。やつは、思った以上にデカイのだ。

そのうち、モーターハウスが並び、うつむき加減の人が怪しく闊歩するような、怖い路地に入り込んでしまった。その、危険な雰囲気の漂う街角で、とっさにカメラを取り出して撮してみた。

そうしたら、案外かっこいい景色。

芸術と、文化の都であるパリには、こんな風にはっとさせられる景色がたくさんあった。セーヌ川の周辺をフラフラ歩くだけで、沢山の美術館を見つけることができるこの街では、自然といろいろなものが洗練されるのかもしれない。

オッサン記念日

部署でカラオケに行った。

途中で、トイレに行った。トイレは、男女共用で一室しかない。用を足していると、外では、17,8 のアホそうな女が(声で分かった)順番待ちをしていた。
「なんだー、うまってんじゃーーん」
とアホ女。
「ちょっと待ってれば空くって」
とお付きの馬鹿男。

死にてえかアホ、と思いながら済ませて外に出る。
僕は紳士的な態度を崩さず、奴らの脇を通り過ぎた。その背後から聞こえてきた声。
「なんだ、オッサンじゃん」

んだとーー。オッサン?誰が?どのように?
生まれて初めて、赤の他人に「オッサン」と言われたのだ。この、今日という日に。なんちゅーことを言うのだ、君たちは。

カラオケの部屋に戻って、その怒りを伝えたところ、
「赤飯を炊こう」
「今日は記念日だ」
「やっぱり」
「アハハハ」

などの暖かいご声援をいただいた。ふざけんな。僕は、そんな年齢ではない。
深く傷ついた僕の心は癒えそうもない。オッサン、、。