真円に削った氷

Photo: グラス 2002. Osaka, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RDP III
Photo: "グラス" 2002. Osaka, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Vario-Sonnar T* 35-135mm/F3.3-4.5(MM), Fujifilm RDP III

向こうのカウンターで、一人客の取り留めの無い話を、初老のヘッド・バーテンダーが聞いている。

ホテル最上階からの冬の夜景は、ガランとしていて、少し寂しい。

ソファーに沈んで、そんなバーの景色を眺めている。


冷たいグラス。

コストと合理性を考えるなら、手で真円に削った氷は意味がないかもしれない。酔うためだけなら、もっと安上がりなやり方はいくらでもある。ただ、そうではないお酒を飲みたい、そういう日もある。

オヤジのお中元洋酒だと思って、飲んだことがなかったカミュ、という名前のブランデーは、存外悪くなかった。


蝋燭の炎に照らされた透明な氷と、磨き上げられたグラスは、飲むのが惜しいほど綺麗で、眺めていると優しい琥珀色の香気が、立ち上ってくる。

いつの間にか、お客がまばらになっていた。カウンターの客は、まだ何か話している。

僕は、少し氷の溶けた残りのお酒を、ゆっくり飲んだ。

東京にも雪が降った

Photo: 雪 2001, Japan, Hokkiado, Nikon F100, AF ZOOM NIKKOR 35-105mm F3.5-4.5D, AGFA Mono-color.
Photo: "雪" 2001, Japan, Hokkiado, Nikon F100, AF ZOOM NIKKOR 35-105mm F3.5-4.5D, AGFA Mono-color.

東京にも雪が降った。

心なしか人通りの少ない都心を歩く。今年の初雪は北海道で見た、というよりも、大雪に降られた。つい、半月ほど前のことだ。その冬が、東京までやってきた。東京の雪は、べたべたして少し汚かった。

雪で大混乱しているいつもの路線を避けて、乗りなれない経路で会社に行ってみる。駅名がよく聞き取れなくて、一つ手前の駅で降りてしまった。

地下鉄の長い階段から地上に出ると、都心は見慣れない雪化粧して、一晩ですっかり冬になっていた。雪を見てもあまりはしゃぐ気分になれなかったの は、このところ風邪気味のせいか。それとも、混む電車が嫌なのか。あるいは、雪合戦をするようなこともなくなってしまったからか。


鼻かぜかと思ったら、熱が上がり始めた。毎年、この季節はこういうものだから、また今年もかと思う。

無理をして、肺炎までいったこともあったから、今年は早めに休むようにした。でも、なんだか、頭がぼうっとしている。おかしいと思って体温計で図ったら、37.8度をさした。急にやる気がなくなった。


翌日、もう一度測ってみたら、同じく 37.8度だった。よくよく見てみたら、体温計は壊れていた。何を測っても、37.8度になるらしい。

まあ、そんなこともあるかと思い、しばらく休んでいることにした。

琉球

Photo: 1995. Okinawa, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film
Photo: 1995. Okinawa, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

台湾の中正駐機場。僕らが乗るEG292の行先表示は「琉球」だった。

こういうのって、どうなんだろう?何かの意図があって、「琉球」と書いているのか。あるいは、これがごく普通の呼び方なのだろうか。


アジアの歴史(それは太平洋戦争よりもっと前からの話)は、とても複雑で、こんなふうにしれっと書かれている「琉球」という呼び方にも、もしかしたら、誰かの思いがあるのかもしれないと思った。(何もないのかもしれないが)