モスク、風と水の場所。

pray

Photo: "pray" 2010. Malacca, Malaysia, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)

それは、祈っているのか、あるいは午後の眠りなのか。あまりにも静かな空気。
イスラム寺院の気配は、仏教寺院にも、キリスト教会にも似ていない。ただ、風が、よく吹き抜ける場所だな、と思う。

今回の旅で、僕は自分がイスラムの事を何も知らないのだと言うことを知った。これだけ知らないものに、おいそれと意見を言えたものでは無いな、とも思った。


モスクの中から、僕たち観光客を眺める、髭の男達が僕には正直少し怖かった。しかし、彼らは至って静かに、吹き抜ける風に身を任せていた。そんな場所を、僕は見たことがなかった。

体を清めるための泉に、水がたたえられている。大理石の泉に、安っぽくてカラフルなプラスティックの柄杓が浮いていた。モスクは、水と風の場所だった。

マラッカのポストも赤かった

a post

Photo: “a post” 2010. Malacca, Malaysia, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)

マラッカのポストも赤かった。

手紙をここに入れてね。

雨のチャイナタウン

Rainy china town

Photo: "Rainy china town" 2010. Kuala Lumpur(KL), Malaysia, Sony α900, Carl Zeiss Planar T* 85mm/F1.4(ZA)

僕は、どこかに旅行に行っても、お土産というものはほとんど買わない。特に、自分のための記念品的な土産というものは、まったく買わない。しかし、仕事で渡航すればある程度の義理もあるわけで、チャイナタウン近くの怪しいショッピングモールで(秋葉原のラジオ館が土産物屋になったような雰囲気、といえば通じる人には通じるだろうか)たいして味には期待できない、中国製のマレーシア土産のお菓子などをさんざん買って(それでも、空港で買うのに比べたら、ずいぶん安い)、晩ご飯のためにいよいよチャイナタウンに行ってみるかと、モールを出たところで、南国の夕方の雨につかまった。


カラカラに渇いたコンクリートが、生暖かい雨を吸い込む。皆、あまり慌ててはいない。こんな雨は、ここでは多分良く降るのだ。歩道の脇に掘られた、驚くほど深い水抜き用の水路は、深さが一メートル近くもある。子供が落ちたら、とは思うが、この溝を埋めるような大雨がこの街を襲う事が、雨期にはあるのだろう。

首から提げているカメラは酷く濡れた。本体は一応の防水が施されているはずだが、それにしても、あまりレンズを濡らしたくは無い。近場の、本屋とドラッグストアが合体したような店に寄って、傘を買う。今だけ使うにしては少ししっかりしすぎているし、少し高い。雨の日の本屋の匂いは、日本と同じだ。リノリウムの床が、キュッと鳴る。


チャイナタウン入り口の交差点。夕暮れと雨が、景色を作っている。喧噪が雨音に静まる。横浜中華街の関帝廟と同じように、ここにもやはり関帝廟がある。門は閉ざされ、人は誰も居ない。良くできたルイビトンや、良くできたプラダを並べる露天が、奥へと続いている。

いままで仕事で過ごしてきた、日本で言えば六本木ヒルズあたりのすかしきった場所とは違って、ここには生活の匂いがする。専門学校生だろうか、若い女の子達が、いそいそとビルに吸い込まれていく。