なんて長い

durian shop

Photo: “durian shop” 2012. KL, Malaysia, Apple iPhone 4S

長い。映画も限界。

ヱビスビールと肉じゃがが出てきて、まだ救われる。

長い。


家でゴロンとして、テレビでも見ていると、週末の午後はあっという間にくれて、夕方だというのに、飛行機に乗ってじっと座っているのは、なんて長いんだ。同じ速度で時間が流れない。

ちっとも過ぎていかない7時間を耐えると、別の国に立っている。

夜の街に、ドリアン売りが居る国だ。

「魚片湯」が超一流にまずい

Sliced fish soup

Photo: “Sliced fish soup” 2011. Singapore, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX.

旅先の醍醐味は、驚くほど不味いものに出会うことである。

フードコートのチキンライスの旨さに気をよくした僕は、ひときは人が並んでいる魚ソバの店を目指した。「魚片湯」と書いてあるので、きっとそんな感じの食べものなんだろう。12時をまわって、近所の会社員達が、昼食を求めて長い行列を作りはじめている。


OLの後ろについて、店の中を覗きながら待つ。並んでいるのは見事に中国系ばかり。周りの会話は、完全に北京語で、まったく分からないし、店の人も北京語で応対だ。(シンガポールは英語も公用語だが、北京語も公用語だ)並んでいる人達のわくわく感、みたいなものが伝わってくる。きっと美味しいんだね、この店は。

僕の前に並んでいたオバチャンは、何人前もの持ち帰りを頼んでいる。簡単なタッパのような容器に並々とソバが入れられる。味付け?の唐辛子醤油のようなものも付いてくる。で、それがちょっと漏れているあたりが、アジア的。僕の前のOLは、一人が常連で、一人が初めて連れてこられたといった感じだ。セルフサービスのやり方に、いささか戸惑っている。


店の中では、会計係のオジサンと、調理係が2人。一人は、白濁したスープを中華鍋に煮立てて、手際よくソバを茹で仕上げる。もう一人は、ひたすら魚のフライを作って積み上げる。ひたすら、ひたすら積み上げる。ビールにも合いそうだ。どう考えても、美味いねこれは。

僕の番になって、もちろん北京語は分からないので、身振りでメニューを選ぶ。ぶっきらぼうに見えるオジサンは、結構親切だった。


たっぷりのスープに、米粉のソバ、魚のフライ、青梗菜。さて、食べてみよう。

まずはスープを。。マズッ!なんか、凄く嫌いな味がする。フライは、、なんか苦い。
致命的に合わない、劣化した脂の気配と、なんかいけない感じのする出汁。これは、まずい。中華圏の下町で出会う、机の脚みたいな例の味だ。全然、口に合わない。なんで人気なのか、まったく分からない。

いや、醍醐味だわ。

トラックの荷台

Dizzy city

Photo: “Dizzy city” 2011. Singapore, Zeiss Ikon, Carl Zeiss Biogon T* 2.8/28(ZM), Kodak 400TX.

早朝。空港からホテルに向かうバスの窓から、見慣れない、光景を見る。いや、僕にはそれは異様な光景に見える。

トラックの荷台に座り込む、浅黒い肌と、彫りの深い顔立ちの人々。

多分、交通法規が日本とは違うのだろう。トラックの荷台に20人ぐらい、座っている。反射板付きのベストとヘルメット。服は普通のシャツ、そしてサンダル。大気汚染を避けるためか、目だけを出して布で顔を覆った姿の男も多い。


開発の進む湾岸地域に向けて、似たような労働者を乗せたトラックが、バスの左右にも、前にも、走っている。彼らが我々のバスに向ける視線は、一様に鋭い。

シンガポールは小さい国で、ITや貿易に強い、それぐらいのイメージしか無かった。しかし、もちろん、国はそれだけでは動かないのであって、Foreign Workerと呼ばれる建設業やサービス業に従事する外国人労働者が大量に雇用されている。

その意味では、シンガポールは非常に「発展している」のであって、安い賃金で手を上げる労働者が居る限り、例え、人口500万人足らずの国であったとしても、そこに海外の働き手が入り込んでくる状況は、日本と同じなのだろう。だが、ここまで露骨であることが、僕を怯ませた。


日中。街中を歩いていると、Foreign Workerとすれ違う。疲れ切った足取りで、目線は鋭い。

ふり返ると、彼も、街も、遙かに遠い。無限に、遠い。