臭い花

Photo:"Stinky flower."

Photo:”Stinky flower.” 2001/5. Santa Tresa, San Jose, CA, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

脳が匂いのデータを処理する領域は、記憶を司る領域に近いから、記憶と匂いは結びつきやすい。というデマっぽい話を長く信じていたのだけれど、改めて調べてみるとそれはだいぶいい加減な話だったようだ。それでも、忘れがたい匂いも、匂いから蘇る記憶も、そういうものは確かにあるので、数年後の科学はまた意見を変えるかもしれない。


20年の時を経て、未だに鮮明に頭の中で再現できる匂いの1つが、San Joseの臭い花の匂い。カラカラの砂漠に、がっしり根を生やした凶暴そうな植物の花は、近づくと咳き込むような臭気を放った。

何のロマンスも、何の美しさも無い臭い匂いが、ずっと忘れられないのだ。

煤けた壁と、台湾総選挙

Photo: "Far east mozaic."

Photo: “Far east mozaic.” 1995. Haebaru, Okinawa, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

先々週、奇しくも、というか確信犯的に友人のうち2名が別々に台湾に行っていた。一人は人生の終の棲家を探しに、一人は、、なんだ趣味かな。街をほっつき歩きながら送られてくる豆花とか、共産党の旗とか、いかげそ揚げとか、そういうものが互いに交わるでも無く、同じLINEチャットに勝手に投稿されていく。

ちょうど同じ日に新しく来たApple TV 4Kで、僕は東京から普通に台湾のニュース番組のライブを見ることができた。開票速報から、蔡英文の外国プレス向け勝利宣言まで。後世の歴史は、今のアジアの情勢をどう描くだろうか。もちろん、その時に歴史を描いているのは、その時代の勝者だろうが。


初めて台湾に行ったときは、現地のコーディネータには「ホテルの部屋には盗聴器があるかもしません」と言われて、大いにびびった。今考えれば、たかが学生の研究旅行に盗聴も無いと思うが、国民党一党独裁であった当時の台湾では、まだそんな警告にも真実味が感じられたのだ。

今、台湾でそういう緊張を感じる事は無い。すっかり変わった台北の世界標準な都市の風景、平和な夜市の賑わい。建物の外壁がなんだか煤けている事だけは、変わらないけれど。

スナック しがらみ

Japanese Snack in Thailand.

Photo: “Japanese Snack in Thailand.” 2017. Thailand, Apple iPhone 6S.

「しがらみ」それが、店の名前。人生のしがらみは、実にここバンコクにまで、しみ出しているようだ。


ゴミゴミしたソイの奥の方、3階建てのビル。1階が日式の居酒屋「みちづれ」で2階は謎、3階がスナック「しがらみ」。スナックは、別にいい。ソイに溢れる熱気と喧噪にウンザリした我々には、普通の居酒屋で十分じゃないか。いや、普通の居酒屋がいいんじゃないか。

店は意外にも奥に広くて、鮨屋のような長いカウンターまである。座ると、ネタケースに転がる、目が充血しきった鯵のような鯉のような地魚と目が合う、この店で生ものは無理だ。


メニューには、親子丼とか、牛丼とか、ベーコンエッグ丼とか、うな丼とか、居酒屋らしからぬものも並ぶ。注文したら本当に出てくるんだろうか。恐ろしく暇そうな店員が、近くの席に座ってくる。連れの一人が旅行ガイドを手に、カタコトのタイ語を操って女性店員に話しかけるのはまあ、良いとして、店員の視線がだんだん怪しくなってきているのは気のせいか。

ちなみに、3階のスナックを見せてよ、と言うとホールに居た女の子達がゾロゾロと着いてくる。つまり、1階の居酒屋みちづれも、3階のスナックしがらみも、スタッフは全く同じであり、出てくる酒も同じであり、スナックと言いながら日本語は全く通じないし英語も無理でタイ語ができないと会話不能、というすさまじい業態であることが判明した。

※しかし、その価格の安さと静けさから、連日この店に行くことになった。業態に怪しさは無いので、女性も安心。と言うことは、あの店員の怪しい視線はより深刻な意味を持っていたのかもしれない。