路面電車VTA

Photo: 2001/5. Santa Tresa, San Jose, CA, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

Photo: 2001/5. Santa Tresa, San Jose, CA, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38, Fuji-Film

ホテルの前に、路面電車が走っている。仕事は、ちょうど合間。天気は、良い。

「ちょっと、出かけましょうか」

そして、僕たちは電車に乗った。とりあえず、海を目指して。


料金は、ビックリするほど安い。市街の路面電車に一日乗り放題、一部のバスも乗り放題で3ドル。電車、というのは、車が基本のアメリカでは、多分あまり高級な交通手段ではない。サンノゼ周辺を走る路面電車は VTA(Valley Transportation Authority) の運営する、Light Rail System といい、アメリカの公共交通機関という意味では、よく整備されている。


この電車、サンノゼ周辺をずーっと走るわけだが、地域によって見事に客層が違う。シリコンバレー周辺では、いかにも SE な感じの小金持ち。ダウンタウンでは、ほとんどヒスパニック系のブルーカラー。さらに郊外に行くと、リタイアした老人か、なんか危なそうなワカモノ(例外なくメタル T シャツと、ヘッ ドフォンを着用)。そして、どこに行くのか、何者なのか分からないアジア系(われわれ)。

車内の客層と雰囲気は、5分毎に刻々と変わっていく。多分、車で移動してしまったら、気が付かないこの街のいろんな空気。電車は、少しゆっくりした速度で、その中を走り抜ける。

電車は Apple の WWDC が開かれている国際会議場を抜け、ダウンタウンを抜け、さらにみすぼらしい新興住宅街を抜けて走る。今や、車両には我々の他、「100% 暇つぶし」にしか見えないバギーパンツ姿のご老人が1人しか乗っていない。そのバギーパンツ氏も、一つ手前の駅で降りてしまった。


終点。海がない。

「んー、間違って山の方に来ちゃいました」

ありゃありゃ。


注:後で切符の裏を見たら、「係官の要請があった場合には、速やかにこれを提示すること」と書いてあった。説明はよく読まないといけません。

入国審査

Photo: "Santa Tresa."

Photo: “Santa Tresa.” 2001/5. Santa Tresa, San Jose, CA, CONTAX T2 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/38

飛行機の窓から見るサンノゼは、ゆるりとした広大な谷である。黄土色の低山。赤茶けた砂漠、そこに人工的な緑と、背の低い建物がへばりついている。

そして、この谷の別名が、「シリコンバレー」


妙にスムーズな飛び方をする新型のB777が、滑らかに機首を下げる。埃っぽい平屋建ての家々が、視界に入ってくる。空港の近くには、低所得者層の家が並ぶ。そういうケースが多いことに、いやでも気が付く。

着陸を前にして、フライトアテンダントがピノのグラスを下げていった。


サンフランシスコと異なり、サンノゼ空港に、観光客の姿はほとんどない。不法移民が流れ込むせいか、入国管理は非常に厳しい。食い下がる審査官に、 会社の ID カードを見せて切り抜ける。ここは、ハイテク産業で喰っている街。僕が取り出した写真付きの社員証は、パスポートよりも雄弁に身分を主張する。

汗だくで空港のシャトルバスに乗ると、米国流の強烈な冷房が出迎えてくれた。カリフォルニアは、初夏を迎えていた。

ひょっとして、ここってシリコンバレー?

管理者は、地理が全く持って苦手であって、サンタクララという場所が、シリコンバレーなのだということに気が付いたのは、着陸10分前だった。
「なんか谷みたいになってるけど、ひょっとして、ここってシリコンバレー?」

国際空港というよりは、うらぶれた公民館のような入国管理事務所を通ると、そこはシリコンバレーだった。


ここに多分、観光客というのはいないのであって、世界中何処にでもいるはずのバックパッカーさえもいない。街には、Cisco, Compaq, Nortel, Dell, Apple といった業界の有名どころから、bea, Novell, Netgear 等のちょっと通な感じの会社まで、あらゆる「ハイテク産業」のビルがあふれている。ホテルの窓から、昔自分が担当していた(させられていた、いや、はめられた)製品の会社が見えたりするのは、なかなか渋い。もちろん、「ここって、ついこの間まで、xxxの本社だったよね」という感じで、消えてしまう会社も少なくない。

ある種、アメリカのステレオタイプである、ボロボロの車は少なくて、Porsche, BMW, Mercedes, Lexus, Acura, Volvo の最新モデルが、駐車場を埋めている。つまり、斜陽と言われつつも、シリコンバレーには、まだ金がある。だから、別にミーティングのゲストにマジック・ジョンソンが来ていたりしても不思議ではない。


マジック・ジョンソンは、元NBAの選手ではあるが、現在は映画館チェーン、珈琲屋のフランチャイズ(羊ページでさんざん言ってるスターバックスだが)、レストランチェーン、スポーツクラブチェーンを経営するオーナー社長だ。
「初めて、自分のオフィス、自分のデスクに座り、足を投げ出して、秘書にコーヒーとドーナッツを頼んだ。それが、自分の夢だった。」

それは、もちろんある種の誇張だろうが、彼の夢は、「ビジネスマンになること」だったのだそうだ。NBAという輝かしい経歴を経て、ついに彼は「ビジネスマン」になった。そんな元NBAのスーパースターの言葉を、IT業界の「ビジネスマン」達は、どんな思いで聴いたのだろうか。少なくとも、僕はコーヒーが嫌いだし、朝からドーナッツを食べたいとも思わないけれども。


成功は、道の両側にある。例えば、名もない学生が興した企業が、全米を代表する企業に成長し、無数のオフィスを並べている。HPSunも、みんなそうして大きくなった。

もちろん、成功するということは、誰かをうち負かすことでもあるし、足蹴にすることでもある。それはネガティブでシャイな考え方だという気分もある。そうは言っても、サンノゼのダウンタウンを少し歩いてみると、そこにはやっぱりホームレスがいるし、雑然とした小さな家々が並ぶ、うらぶれた通りが続いているのだ。

空調の効きまくったホテルで、次世代インターネットに関する話題が飛び交っている世界と、そこから数キロ先の路上で、なにやらアイスクリームのようなものを売っている老人の世界とは、やっぱりとんでもなく違う。良い意味も、悪い意味もなく、事実として、シリコンバレーは、今の時代の成功者のための街だ。


さて、ホテルの前に、路面電車みたいなものが走っている。一日、乗り放題で3ドルなので、サンノゼの太陽がギラギラする中、ぶらり路面電車の旅をしてみた。写真も撮ったので、それはまた帰国してからということで、、。

注1:地理が苦手というよりも、地理を気にしないという方が正解。
注2:本来はビジネスパーソンでしょうが、日本語としてはあまり定着していないので、ビジネスマンという表記にしています。