旅&食の記事一覧(全 233件)

オーガニックテキーラ

mark329.jpgちょっとした陸の孤島みたいな所に暫く通っていた。昼ご飯を食べようと思っても、駅前に、マックとモスと、居酒屋チェーンと、ラーメン屋しかないような、そういうところ。ところが、何故か「オーガニックイタリアンレストラン」を見つけた。喫茶店を居抜きでレストランにしたと思われる雑然とした店内と、やたらに品数の多いメニューをみて「やばいかも」と思う。メニューに挟み込まれた、オーガニック食材に関する説教臭いタウン誌の切り抜きを目にすると、ちょっとうんざりする。夫婦でやっている店なのだが、厨房を仕切っているのはもの凄く不機嫌な平野レミみたいな奥さん。アニマル浜口みたいなオヤジさんは、奥さんに叱咤されながらホール係だ。
カルボナーラを思わず頼んでしまって、どんなモノが出てくるのか?と思っていたら、存外まっとうなものが出てきた。場所を考えるとちょっと高い値段を取っているのだが、良い材料を使っているみたいで、とても力のある味がする。卵がちゃんとしているカルボナーラって、こういう口当たりなのか。
そんな話を店主としながら、いつものバーで飲んでいた。ちょっと甘い酒が飲みたくなったので、テキーラを頼むと。
「あ、だったらオーガニックテキーラがありますよ」
なんだそれ。メキシコ製品でオーガニックとかありえるのか(そういう言い方って失礼?)
出てきた酒は、テキーラとはまったく別の味がした。

それって

「どうして薄皮の肉まんがないのかな」
ひよこ並みに薄いってことか?
「そうそう、凄い薄いの。見たことないだろ、誰も作ってないだろ」
うーん
「これは絶対売れるね」
それって、餃子って言わね?

スーパー・ニッカ

Photo: ニッカ 2005. Sapporo, Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.
Photo: "ニッカ" 2005. Sapporo, Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.

札幌に行ったときに、必ず行くバーがあった。別に、お洒落だとか、カクテルが旨いとかいうのではなくて、とにかく安い。すすき野の一等地にあるくせに、店内に飾り気は一切無し。メニューの中心は、国産のモルトウイスキー。つまみも簡単なものが中心で、男の独り客がスパルタンにカウンターで飲むといった、かなりいかつい店だ。


さて、この間、久しぶりに行ってみると、扉を開けて入ったは良いが暫く呆然としてしまった。店の名前も、場所も同じなのに、店の中が全然違う。カウンターは夜景をバックに通りに面した側に移され、「止まり木」程度だったテーブル席はきちんと寛げる「テーブル席」に変り、コンクリ打ちっ放しの床は板張りにと、今風に改装されていたのだ。

そして、僕はカウンターの女性のバーテンの前に通された。というか、バーテンが女性だけだ。ちなみに、前の店(?)はバーテンは苦み走ったオヤジだけだった。怪訝な表情を浮かべながら(浮かべたくはなかったが、浮かんでしまっていたはずだ)メニューを繰ると、ダイニングバー並みのフードメニューの充実。前の店では頼んだことがないカクテルが全面に押し出され、メニュー単価は順当に上がっており、なにがなにやら。まずは、オンタップのビールを頼んで気を落ち着けた。ビールはちゃんとしていた。


店がいったいどうなったのか、バーテンに聞いてみた。2年ほど前に全面改装したのだという。なるほど、札幌は2年ぶりで、僕が最後に行った直後に改装されたのだろう。店のスタッフも大幅に入れ替えられて、もう昔の面影はない。バーテンの彼女にしても、改装されてからスタッフだという。少し寂しい気分になったが、それはそれ。以前のカラカラしたピスタチオのあてよりも、新しい店で出てくるカカオの強い生チョコのお通しのほうが、よほど気が利いている。

女性で「酒が好き」という人は、ホントに酒が好きな人が多い、というのが僕の印象なのだが、たまたまこの日僕の前に立った彼女も、「酒が好き」でこの仕事をやっているという。彼女が勧めたのは、この「スーパー・ニッカ」の原酒。つまりブレンド前のシングルモルトで、55.5%。え?、スーパー・ニッカ?という声が聞こえてきそうだが、これは美味しかった。もちろん、高級な味はしない(値段も、とても安いのだ)。でも、筋の良いハウスワインというか、毎日仕事上がりに1杯飲むのに良い、素朴な味がする。酒が好きな人が好きな味。価格は安く、普通には流通していない。やみくもに、高いものを勧めるのではなくて、ちゃんとこういうものを出せるってたいしたものだと感心。店は全然変わったけれど、また新しい歴史がつくられていく。