阿藤快のために伊勢海老を煮ている

俺はなんで、阿藤快のために伊勢海老を煮ているのだ。しかも、殻を砕いてシノワで濾して何をつくっているのだ。ソースでもつくっているのか。

熱に浮かされた悪夢はとめどなく、僕を苛んだ。海老が煮えない。阿藤快が吠えている。「海老はまだかっ!」


4年前、四万十川から帰って、直ぐに肺炎になった。夏の暑い盛りに、脱水症状を起こして、病院の待合室で倒れた。医者には、「肺炎は癖になるから、何年かは気を付けるように」と言われていたが、今年はどうもあたってしまったらしい。

どんどん調子が悪くなって、声が出なくなって、体温がコントロールできなくなる。色んな事ができなくなっていく。起きあがっているのも苦しい。気が付くと、病んでいる人間の臭い、みたいなものが自分を包んでいる。これは何の臭いなんだろう。膿んだような、ゆっくり朽ちていくような臭い。

寝床の上で、ぐるぐる回る天井をにらみ付けていると、やる気も、未来も、動ける自分が前提になっていることにふと気が付く。そして、いつか自分の体がそのまま停止して、失われるということを思い出す。呼吸をしているのは、まごうことなく自分の肉体で、それはいつか止まるのだ。生きるというのは、なんて個人的な事なんだろう。

、、まあ、でもこれだけ調子が悪いと、何かしなくちゃという強迫観念にも似たものはなくなるから、それはそれで良い。ぼんやりテレビ見ているのがせいぜいだし。


注:もう回復しました。

白目があるのは、動物では人間だけらしい

日ごろは全然役に立たない日経新聞にも、たまには良いことが書いてある。白目があるのは、動物では人間だけらしい。ホントか?近所の犬の目を覗きこんでみるに、本当のような気がする。

表紙の羊(手製)は、まあ、いろんなところが間違っているわけだが、まず白目があることから間違っていたか。第一、リアルに言えば、羊の目というの は実は四角かったりするのであって、それを生物学的に正確に描いてしまうと、なんか呪いかかったようなページになってしまいそうだが。


そもそもなんで羊ページなのかという理由は、プロフィールのあたりに書いておいたが、ようはあんまり確固とした理由はない。羊ページという割には、 羊がらみのコンテンツが一つもない。写真だって一枚もない。一昨年の年末などは、年賀状用の羊の写真を求めて、恐ろしいくらいの数の人たちがこのページを 訪れ、空振りして帰っていった。申し訳ないことだ。

そんな風にいい加減に続いてきたこのページも 21日で 8周年を迎えた。これぐらいになると、もうめでたいとかいうよりも、また一つ歳をとってしまった(何が)というような気分に近い。個人 web サイトの一生、みたいなものを解説しているサイトでも、8年とかになるともうあらかた想定外になっている。

テーマも定まらないまま、管理者の興味の移り変わりに翻弄されながら、なんとなく続いてきたこのページ。まあ、今後とも羊の白目みたいなページでいいやと思う。なんだそれ。

1977/2/25, 1945/9/10

WWE の試合をバグダッドでやっていた。米軍の M1 戦車が取り囲む中にリングをつくって、兵士相手の慰問だ。奴らは、世界の何処にでも、エアコンと、ステーキと、パーティーを持ち込む。ベトナムと、何が違 うんだろう。戦争は、やっぱり勝たないとダメだ。負けたら、どんな屈辱も受け入れなくてはならない。でも、一番良いのは、戦争に関わり合いにならないこと だ。それは、本質的に不愉快な出来事なのだ。

易占いで”波風を立てるな”と言われた。でも、わたしはそんな忠告を気に留めず、「ワインやステーキやエアコンが欲しいだなんて、あなた自身がベトナムの愚を犯そうとしてるわ」と、フランシスにテレックスを送った。*1


よく分からないのが、たった半世紀前に、連合国 (United Nations) の占領軍に「占領」された日本人が、イラクに占領軍を送ろうとしていることだ。それは、国連 (United Nations) の旗のもとですらない。いかなる場合にも、戦争という「状況」に参加してしまうことは、賢いやり方だとは思えない。しかも、これは他人の戦争だ。

藤沢の駅にて米兵の一隊四、五十人ばかり乗車せむとせしが、客車雑沓して乗るべからず。米兵日本人乗客を叱咤し席より追い払ひて乗り行きたり。(中略)これかつて満州にて常に日本人の支那人に対して為せし処。因果応報、是非もなき次第なりといふ。*2

注1:1977年 2月 25日の日記、フィリピンで撮影をする夫フランシス・コッポラへのテレックス、『地獄の黙示録』撮影全記録, エレノア・コッポラ, 小学館文庫, 2001年
注2:1945年 9月 10日の日記、隣家の人に聞いた藤沢駅での昨日の出来事, 摘録 断腸亭日乗(下), 岩波文庫, 永井荷風, 1987年