干物屋をひやかす

Photo: 梭子魚 2006. Atami, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EBX.

Photo: "梭子魚" 2006. Atami, Japan, Contax RX, Carl Zeiss Planar T* 1.4/85(MM), Kodak EBX.

熱海の街を歩いて、干物屋をひやかすのは面白い。


店の作りはどれもよく似ていて、軒先には人寄せを兼ねた干し台があり、奥にこぢんまりとした入れ込みのような休憩所がつくってある。練炭を入れた七輪で、干物を炙って食べる趣向だ。

干物の他にも、蛸の塩辛や、鯑の山葵漬、若布のふりかけなんかが並んでいるが、よくよく見ると、これって箱根でも売ってたよな、というのもあったりする。もっとも、そういうのをあえて買う愉しみ、みたいなものは確かにある。


それにしても、干物というのは、色とりどり魚が盛られていて、しかも、もうあとは炙って食べるばかりという訳で、つい、あれもこれも欲しくなる。特にこの棚。梭子魚のピンと張った尻尾と、飴色の身は、とても美しくて、日本の食べ物の綺麗さに息を飲む。温泉町の土産物屋で、こんなものが買えるのだ。

結局僕は、ここでは何も買わないで出た。かまぼこか何かを、買っていたのも居たな。

食用ではない。

Photo: 水槽 2005. Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.

Photo: "水槽" 2005. Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.

真夜中の水槽には、大きなスッポンが泳いでいた。

毎夜怒鳴り合う酔っぱらいをガラス越しに眺めて、彼には昼もなく夜もない。

綺麗に飾り付けられた見栄えの良い水槽が、ただの檻であり棺桶であったとして、それを眺めている僕と彼の間に、どれほどの違いがあるだろうか。


食用、ではないんだろうな、ここはバーだし。

人には二つの誕生日がある。

Photo: 窓 2005. Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.

Photo: "窓" 2005. Contax i4R, Carl Zeiss Tessar T* F2.8/6.5.

ある本を読んでいて、人には二つの誕生日があることを知った。

自分が生まれた日が最初の誕生日。自分のことが理解できた日が二番目の誕生日。それをセカンドバースデーと言うらしい。


誰でも最初の誕生日はもっているけれど、二番目の誕生日はどうだろう。僕はまだ、二番目までいっていないような気がしていて、でもそれはちょっと近いような予感もしている。