フォトエッセイの記事一覧(全 319件)

何かがズレれて

Photo: "Early Summer Pond with Water Striders."
Photo: “Early Summer Pond with Water Striders.” 2025. Tokyo, Japan, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM

英会話から帰ってきて、ステーキを焼いて食べた。オージービーフのグラスフェッドは、焼いた後もフライパンに脂が残らない。実に淡泊で、自分には好ましい気がした。うまいか、と言われれば、USプレミアムなんかよりは全然うまみはないのだが。楽に食べられるというところでは、そうなのだ。一昨年沖縄で買った、そして幾分湿気てしまった、ミックス・スパイスを振りながら食べる。

そうして、午後は国立近代美術館に行こうかと調べるが、混雑しているというGoogle Mapの表示が気持ちをなえさせる。それでも、自分を奮い立たせて準備をしたが、洗面所のドアの角に足の小指をぶつけて、一気にやる気が失せた。というか、これはあんまり良くない方向性ね、と思って美術館は諦め、すぐに昼寝に変えた。

何度か目覚め、そのたびに日は傾き、午後7時を過ぎたぐらいに起き上がる気になった。そうして、起き抜けのベットから、iPhoneが転げ落ちた。寝室の床に落ちたぐらいでは、別にどうということはない。出かけていたら、もっとろくでもないことになっていた、そんな気がした。

まだズレている。もう少ししたら元に戻るだろう。


今日の締めくくりに、FujifilmのX-Pro2を引っ張り出してきて、調子を見る。暫く使っていないが、全然OKだ。バッテリーは買い直しているし、設定も見直してあるし、ファームウェアも上げてある。準備は出来ているから、もう一度慣れて、馴染ませるだけの話だ。ある程度、見た目がカメラカメラしていた方が、かえって撮りやすいのではないかと、この前の市場の廊下で思った。それは、確かにそうなのだ。カメラマン然とした様式美のようなものが、それを許容させる。そういうものだ。

ペーパードリップで簡単に入れたコーヒーを飲んで、夜の闇に光る橋を見つめる。コーヒーの良し悪しは、自分には分からない。美味い基準というのが分かっていない。だから、別に美味いとも不味いとも、思わずに飲んでいる。銘柄は比較的不愉快では無い、という味のするものを買っている。だから別に量は減らない。いつ開けたかも定かで無い粉を、琺瑯の入れ物からついで、ドリップしている。多分、量は多くて濃い目なんだと思うが、全然減らないので、惜しくは無い。

タワマンに住むと、窓の景色は見慣れてしまって、やがて見なくなるとも言う。そんな気はする。内見で幾つかの物件を回ったときに、建ったばかりのタワーマンションも試しに見てみた。エレベーターホールは、デパートかオフィスビルのそれで、自分がこんな所に毎日帰宅するという想像がつかなかった。

部屋から見る景色は、まぁ、眺めとしては良いのだろうけれど、地上から全てが遠すぎて、逆に見るべきものが無いように思えた。ビルトインの食洗機は魅力的だったが、まったく入居する気が無いことは、すぐに不動産屋にも伝わったのだと思う。部屋に来るまでの彼の熱心なセールストークは、止んでいた。


だが、この部屋から見る川はずっと観ていられる。一時として同じ事は無く、違う流れが永遠に続くのだ。ここにずっと住むことは無いにしても、もう暫くはこの眺めを楽しむことにしよう。実際、この眺めにはいろいろ救われる所もある。対岸まで、まったく人目が無いのもいい。都心の空白地帯みたいなものだ。

思いもよらない支持者

Photo: “Khao Yam.” 2025. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.
Photo: “Khao Yam.” 2025. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

ごく日本風にArrangeした高級タイ料理、というのに惹かれて、この店を選んだ。面子は3人。取引先で今度実質的な社長に昇格するIさんと、それとはまた別の会社の社長 Tさん。会はTさんが設定してくれて、店は料理と酒にとことん人生を費やしている彼女のリストから選ばせてもらった。

Iさんの昇格祝いを兼ねているのだが、そのIさんは、実は当初そんなに印象に残る人ではなかった。現場に来ているちょい偉い人、ぐらいの認識。そんな彼が、僕を評価してくれていて、影のサポーターであった事に、最近まで気がつかなかった。「あの人、凄いファンだから。」Tさんから、そう教えられたのは、出会いから何年か経ってのことだった。自分が気がつかないところで、自分を助けてくれている人が居る、そういう事は人生の勇気になる。


日本の素材をタイ料理の手法で処理し、日本のやり方で仕上げる。そういうレストランというのがどれ程あるのか知らないが、僕にとっては初めてのものだった。古代米、鮟鱇の肝、苺、ナッツ、レモングラスなどによるKhao Yam。見た目の美しさ、だけではなくて、混ざった素材のバランスが秀逸。少しのナッツが、タイ料理の感じを高める。

タイ料理の味わいが含められていて、それでいて、日本の素材でできている。タイ料理じゃない素材を組み合わせて、でもこれはタイ料理だね、という感じがちゃんと出ている。遊んでいるという感じがする。好奇心を忘れないで、いろんな新しい組み合わせに挑んでいく、楽しいディナーだった。Tさんから、料理にココナッツオイルを使うと、ちょっと新しい世界が見えるとか、そんな事も教わった夜だった。

自分の昇格祝いも兼ねた席に、お土産としてお気に入りの最中まで持参したIさんは、きっとうまくいくと思う。

マックでバイトしたい上司

Photo: “Big Mac accelerator.” 2025. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.
Photo: “Big Mac accelerator.” 2025. Tokyo, Japan, Apple iPhone 14 Pro Max.

世に知られた外資でマネジメントをしている人が、副業としてマックでバイトをしたいと口走っているらしい。そして、面接を受けてきたらしい。

機械的なインタラクションだけしていたい。判断したくない。指示待ちだけしていたい。間違っても、バイトクルーのリーダーになんてなりたくない。クリエイティビティー?不要。その気持ちは、しみじみ分かる。僕だって、ひたすらキッティングして、ラッキングして、インストールするみたいな仕事がしたいと言うと、冗談だと思われる。でも、まったく本気なのだ。

よかれと思って、偉い人に選択肢を提示するのは、まず、裏目に出る。彼らは決断する事に疲れている。こちらが落とし込みたい結論、それに導く妥当性のあるエビデンス、ちょっとした質問をさせる遊びの用意。そうあるべきだ。


それはさておき、スーパーで売っているハインツのアレ。ビックマックをよりアクセラレートできるのではないか。ビックマックを分解して、アレを山盛りかける。その味わいは、確かに期待に応えるものだった。