パークハイアット

しっとりした絨毯の上を、歩いていく。7色の花を盛りつけた、中国風の花器。飴色に輝く、マホガニーの本棚。研かれた金属の光沢を吸い込む、深緑の石壁。にぶい静寂。

再び、エレベーターに乗る。地上数十階から見下ろす、街。梅雨の雨に洗い流され、澄みきった大気。ひときは眩い、街の灯り。聞こえてくるのは、賑やかなオールデイズの歌声と、浮かれたピアノのリズム。

ピシッとしたウェイターが運んでくる、冷たいカクテル。口をつけてから、アプリコットがキライだったことを思い出した。ざわめき、タバコの薄い煙。向かいに置かれた、オン・ザ・ロックスの氷が、ゆらりと動く。

気遅れさえしないなら、こんな場所で、お気に入りの酒を飲み比べてみるのもいい。このBARは、副都心の夜の中で、もっとも好ましい場所の一つ。いろんなことはどうでもよくなって、アルコールのひんやりした匂いだけが心地よい。少し高揚した、ゆったり感。

はっきり言って、初めて行ったのだが。

オキテ、シュウマイ!

取引先の営業が、最後に僕たちを連れて行ったのは、フィリピンパブ。

その時既に、僕は眠さの限界に達していて、ほとんど意識がなかった。店の女の子達が、寝続ける僕を指して「この人はどこから来たの?何人?」と同僚 に訊いたところ、ためらいもなく「チャイニーズ」と答えた。おかげで、僕のコードネームは「シュウマイ」に決定したらしい。知らない間に、「シュウマイ」 と呼ばれていた。
「ウェイクアップ、シュウマイ!!」
「ガンバッテ!シュウマイ!!」
「オキテ、シュウマイ!」

薄れる意識の中で、「シュウマイ!」と呼ぶ声だけが聞こえた。

注:彼女たちの知っている中国語である、ギョーザ、シューマイ、シェイシェイの中から、シュウマイに決定したらしい。

シックな濃紺のベビーカー

仕事で表参道へ。

昼食を食べたレストランは、「シェフは今日はお休みですか?」というような味。真っ白の天井と、真っ白のクロス。それは、よかったのだが。

カフェのオープンテラス。友達と待ち合わせている若い母親は、超お綺麗。シックな濃紺のベビーカーから、彼女のお子さまが、僕を見てニコニコしている。

カラリと晴れた、午後。