「おっ」
「何」
「でかいネコ」
「五月蝿いよ」
「ふとってんな、ドラえもんみたいだ」
「失礼だね」
「なんでおまえだけ、にげないの?」
「関係ないだろ」
「しゃしん、とってもいいかな」
「勝手にしろ」
「ここらへんは、たべものがいいのか?」
「まずまずだな、でも、そんな楽ってわけじゃ、、」
「なさそうだね、その はなのきず」
「、、ふん」
「のらにはみえないくらい、いいけなみだなぁ」
「、、」
「それに、どうどうとしてる」
「撮ったらさっさと、、」
「、、行くさ、じゃましたね」
「、、ふん」
写真と紀行文
「おっ」
「何」
「でかいネコ」
「五月蝿いよ」
「ふとってんな、ドラえもんみたいだ」
「失礼だね」
「なんでおまえだけ、にげないの?」
「関係ないだろ」
「しゃしん、とってもいいかな」
「勝手にしろ」
「ここらへんは、たべものがいいのか?」
「まずまずだな、でも、そんな楽ってわけじゃ、、」
「なさそうだね、その はなのきず」
「、、ふん」
「のらにはみえないくらい、いいけなみだなぁ」
「、、」
「それに、どうどうとしてる」
「撮ったらさっさと、、」
「、、行くさ、じゃましたね」
「、、ふん」
突堤の縁に立って、打ち付ける波を見つめている。夕日が沈んだばかりの海面には、未だ暮れきらない明るさが残る。
恐い。薄暮の中、鉛色の液体が、ザブザブと蠢いている。冷たい手、致死のものがすぐ足許に横たわっている。
小さい頃、光の漏れるエスカレーターの隙間が恐かった、ホームから眺める線路にも、死の影があった。今、それらは恐くない。でも、コンクリートにばっさりと切り取られた海は、恐い。
ここには一人で歩いてきた。思うに、突堤は一人で来た方が良い。吹く風は、やがて全てを離ればなれにしてしまうから。
突堤、道の終わり。
屋久島で、昼メシを食べようと立ち寄った浜。観光シーズンはとうに終わって、店はひっそりと静まり、人影は見えない。遠くで、護岸工事をする重機が唸りを上げていた。景色は霞んだ薄い光に包まれ、空は低く、空気は潮でねばねばしている。
両側は、砂浜だ。この消波ブロックが無ければ、砂はじきに失われてしまうだろう。砂浜は、この醜い腕に抱かれて、どうにか生き延びている。
この浜に、ウミガメは卵を産みに来るという。何故こんなところに、長く旅をしてまでやって来るのか。茫洋とした黒い海を眺めながら、僕は突然、心が寒いと思った。
僕が撮る写真には、これといったテーマも思想もないけれど、突堤を撮ることは多い。その有無を言わせない隔絶が、僕を引き寄せるのかもしれない。
しかし、突堤は、行き止まりではない。僕は振り返って、再び歩き始めた。
注:とっ‐てい【突堤】 陸岸から海中または河中に長く突き出た堤防状の構築物。港・湾では防波堤とし、河口では水深を維持するための防砂堤とし、海岸では人工的に砂浜を作るために用いられる。[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]