旅&食の記事一覧(全 233件)

Mr. Mushroom

Photo: "Mr. Mushroom” 2014. Tokyo, Japan, Apple iPhone 5S.
Photo: “Mr. Mushroom” 2014. Tokyo, Japan, Apple iPhone 5S.

今日のお任せを頼んだら、3皿目にミスターマッシュルームが現れた。

「ハロー、おいしいよ!」

と言ってるね。

鶴橋のオヤジ

Horumon
Photo: “Horumon” 2014. Osaka, Japan, Apple iPhone 5S.

大阪に来た時には、少し無理をしても、行きたい店がある。鶴橋の焼肉街からは外れた場所にある、もう40年以上やっている店だ。

カウンターに並んだロースター、造花と黒電話、阪神戦を流すテレビ。出てくるホルモンは安くてうまい。オヤジと息子の二人で、ずっと切り盛りしている。僕は人情肌の店主というのが苦手なのだが、ここのオヤジさんの威勢は好きだ。

半年ほど前、オヤジは少し元気が無くて、息子が店に立っていないことへの、常連客の質問にも言葉を濁したものだった。

だから、盛夏の折、久々の店に近づきながらも、オヤジ大丈夫かな、と少なからず心配だったのだ。

しかし、今日は入口近くのカウンターに腰掛けたオヤジは、戸が開くと嬉しそうに、よぉ、久しぶり!と迎えてくれた。


先客の居ないカウンターの奥では、だいぶ白髪の増えた息子が、いつものようにビビンバの支度をしていた。オヤジほど、愛想があるわけじゃないが、そんな空気も含めてのこの店だ。

息子は店に戻って来ていた。いいかげん肉の仕事は息子に任せたのかとおもったら、やっぱりオヤジが肉を切ってタレと和えている。息子が(とはいっても、僕よりもだいぶ上なわけだが)ビールを出してくれる。

切りたてのばら肉も、瑞々しいシンゾウ(ハツ)も、しみじみいい色をしている。


そんな店の仕事を見ながら、良かったなぁ、と思う。

オヤジはとても幸せそうで、最初にこの店の暖簾をくぐった十年前と同じように、さ、何にしよか、何からいくか。と声をかけてくる。いつもの掛け声だ。

新幹線の時間を気にしつつ、今日は良かったなぁ、と、本当に思った。

香港2011年

Nathan Road, Hong Kong
Photo: “Nathan Road” 2011. Hong Kong, Apple iPhone 3GS, F2.8/37.

香港便。結局、退屈しきったので、PCを取り出して、文章を打ち始めた。

香港。それが中国という意味であれば、僕は中国には行ったことがある。しかし、そもそも通貨が異なる。中国行きの、ましてコードシェアであれば、それなりにアジアな喧噪を想像したが、そうでもない。中国本土行きに比べれば、乗客の民度というかお行儀は格段に良い。持ち込む荷物の量も少ないし、席を隔てたおしゃべりもあまりない。本土と香港は一つの国だとは言っても、租借の期間に歩んだ道のりの差異が、そういう所にも出ているのだと思う。もちろん、隣に座った香港人はヘッドフォンを付けず、大音量で iPhone で撮影した日本滞在中の動画を鑑賞している。

それも、まあ、そういうもんだろうと思うのは、僕が少しアジア圏のスタンダードに慣れたからなのかもしれない。


朝は、いつものように、少し早めの空港行きのバスに急いで乗った。こういうのは、勢いが大事で、迷っていたら永遠に荷造りなんて出来ない。バスの一番前の席に座って、曇り空の一日が明けていくのを眺める。毎日、日本から旅立つ人と、海外から降り立つ人を、運びつつけている運転手は、どんな気分でいるのだろう、という、いつもの疑問を頭の中で転がしながら、前を見つめる。

幕張を過ぎたあたりで、高速道路沿いにぼた山が見えてくる。厳密にはそう呼ばれるものでは無いのかもしれないが、僕のイメージではそれはぼた山だ。ただの建設残土の塊だった山に、数年で樹木が生えて、いまは少し山っぽくなってきた。張りぼてのミラコスタの壁を眺め、グランドオープンと書かれた、眩しい照明看板を掲げるラブホテル(午前6時だ)を通り過ぎ、一面の水田とそびえるゴミ焼却場。

誰だ、成田に空港を作ろうと考えたのは。

(震災前の文章)