船越気分で覗く

The raised aqueduct

Photo: “The raised aqueduct” 2013. Nanzen-ji, Kyoto, Richo GR.


様式美、というのはあって、実にそれを作り上げる努力というのは、並々ならないものがあるのだと、最近は思う。

ただのマンネリじゃねーか、という、そのマンネリを作る力というのは、バカにできない。様式美は合理性に勝つ。それって、凄いことだと、改めて思う。

この間、仕事で対談した「エバンジェリスト」みたいな人も、いったいそのテーマで、どれだけのことがいまさら言えるんだろう?と思っていたのだけれど、実際話してみると、すげぇな、と思ってしまった。職人が行き着くと、様式美になるのだ。

別に伝統芸能とか伝統工芸とかに限らない。それが、ITみたいなものであっても、何であっても。


京都南禅寺、水路閣。火サスに出てくる、あのシーン。絶対に見たことがあるはず。

船越が待ち合わせたり、追いかけたり、襲われたりする、例の水道橋だ。これが実際に行ってみると、南禅寺の一番奥まった場所にあって、たまたま行き着くような場所ではない。交通の便も良くないし、この場所へのアプローチは長い一本道だから、さぞかし尾行などもしづらいだろう。

ようは、ここで襲われたりする事は無いだろうし、待ち合わせるような場所でも無いのだ。しかし、絵にはなる。


ということで、ここで事件が展開する妥当性は、実際ところまったく無いのだけれど、京都ゆけむり殺人紀行の様式美としての水道橋は、絶対に必要なのだ。

ここに来たら、どうしたって、船越気分で覗くしかない。この現場に立った僕は、むしろ様式美に自分を合わせてしまうのだった。

Mac 版 ATOK2012 から Google 日本語入力に切り替える

Google 日本語入力 環境設定

Google 日本語入力 環境設定

買った最初の頃は、その SSD の速さに愕然とした MacBook Air Mid 2011 だったが、いつの頃からかやけに不安定になっていた。

動作が遅い。突っかかる、レインボーカーソルが出まくる。アクティビティーモニタすら固まってしまい、SSH で外から入ることもできず、日に一度は電源ボタン長押しになる。このマシンって、こんなに遅かったっけ、と腹立たしくなる。ディスクの修復も、キャッシュのクリーンアップも効果が無い。

OS なんて使っているうちに遅くなるもの、と言うのは宿命的にわかっているのだが、どうも何かがおかしそうだ。

調べていくと、ATOKが原因という気がしてくる。僕が使っているのは、ATOK2012 で Mountain Lion に正式対応しているが、アップデータの適用で不安定さが改善するという。確かに、適用すると暫く改善したように思える。しかし、間もなく症状が再発。元の激遅 Core i7マシンになってしまった。


ふと、別のIMEに試しに変えてみようかと思う。ATOK2013 にバージョンアップする事も考えたが、基本となるコードは同じだろうから躊躇してしまう。Google日本語入力なら無償だから、それで試してみようかと思い立つ。なんとなく、サーバーに情報を送って変換候補を出していたら怖いなと思ってしまうが、そういう事はしていないようだ

ATOK のアンインストールまではせずに、使用する IME を Google 日本語入力に変更してみる。正直、IMEの変更で、これだけの不安定さが完治するとまでは思っていなかったのだが。

ATOK の辞書ユーティリティーを使い、テキスト形式でATOKのユーザー辞書をエクスポート。Google 日本語入力にインポートする。実際、辞書のコンバートは数秒で終わってしまう。少なくともユーザー登録単語については、ここ20年近い僕の成果というのは所詮その程度のものなのだ。

[言語とテキスト]->[入力ソース]で、日本語関連を全てGoogle日本語入力に変更する。念のため再起動して様子を見てみる。


結果、驚くほど動作が速い。クリーンインストールでもしたかのような速度。レインボーカーソルは、全く出ない。入力メソッドを切り替えるときのつっかかりも無い。IME を変えて約一週間、電源ボタン長押しを一度もやっていない。IME だけで、これだけシステムに影響が出るというのは正直意外だ。

サジェスト機能を切って(これが便利という人は多いのだろうが、僕にとっては違和感が凄かった)、キー割り当てを MS IME 互換に変更してしまえば(Windows でキーボードを叩いている時間のほうがやはり長いので、そちらに合わせている)、機能が少なくなった ATOK な感じで別に変換にも利用に耐えないような違和感はない。もともと、それほど ATOK 固有の拡張機能を使っていたわけではない。文法的な誤りの指摘や、送り仮名のルールなどそういう機能が無いことにいささかの不安を感じはする。しかし、圧倒的な速さは魅力だ。

やはり、自分の慣れていない環境での変換なので、そこが漢字かよとか、変換候補の順番がそれかよ(結構、意味不明な変換順序が出てくる場合がある)、とかやっぱり気にしてしまうと、どうかとは思う。だが、実用的な安定性が無いと使いようがないのだから、仕方がない。


そういえば、System 7.x の頃って、Mac の動作が不安定という質問をすると、ATOK をアンインストールしてから出なおせ、というのがデフォルトの回答だったのを思い出した。Windows版の ATOK は、なんの問題もなく 10年以上使い続けている。そう考えると、Mac 版に固有の不安定さだと思う。ATOK 自体の変換や機能への愛着はある。是非、Maverick 版では安定したものを出してほしい。

素晴らしいテキサス日本料理 Waza

Waza entrance

Photo: “Waza entrance” 2011. U.S., Apple iPhone 4S.

「あとはー、宿の近くだと、日本食レストラン。鮨と鉄板焼き。」

「それ行きましょう」

「まじか」

僕はiPhoneアプリで周辺のレストラン候補を片っ端から読み上げていた。テキサスのど真ん中で、鮨?

僕たちは、ヒューストンの宇宙センターから市の中心部を抜けて、郊外の宿に戻ろうとしていた。

20代なのに、もう日本食が食べたいのかよ、と一瞬呆れてしまったのだが、彼の意図はそうでは無かった。世界のあちこちで作られている、地元の日本料理、そのとんでもっぷりを楽しむ、それを趣味にしているのだと言う。


WAZA、というのがその店だ。

「技」とはなかなか大きく出ている。Waza Teppanとネオンの灯ったファサードを潜ると、長いエントランスに竹があしらわれ、右手にウェイティングバー、そして奥が長大なカウンターとダイニングという作り。本格的だ。

過剰な竹の醸し出す雰囲気は、完全に上野のパンダ舎である。随所にあしらわれたネオンや、酒樽といったオブジェが、マイアミバイスに於けるオリエンタルなクラブ、といった空気感を醸し出していて、大変に好ましい。


僕たちのテーブルに着いたウェイターは中国人。我々が日本人である事に、かなり動揺していた。

日本人のお客さんをもてなすのは初めてだ、と言う。脚を伸ばせばメキシコ国境にも行けてしまうヒューストンの日本料理店には、観光客も来ないのだろう。この店には、シェフも含めて日本人のスタッフは一人も居ないが、それでも良いかと念を押された。

我々は、鴨を醤油でといたワサビで食べようというのではない。テキサスっ子の解釈した日本食の神髄を、容赦なく供して頂きたい。鮨屋だと言うわりに、枝豆ギョウザなんかもある。ツマミから、鮨から、一通り頼んでみる。


前菜の、蛸の串焼きは衝撃的だった。良くもここまでこまこました脚を集めて串に刺したなという、むしろその技術に感心する。中国の屋台で売ってるサソリの串焼きみたい。考えてみれば、蛸なんて多分食べない人達なのだ。この人達は。

店長のオリジナル料理という土瓶蒸し。ウェイター曰く、これはオリジナルなので、食べ方を説明します。まず、酢橘を絞って、、てこれは日本の伝統料理で、オリジナル料理じゃ無いよ。店長は中国人に、自らの日本料理の知識をだいぶ盛り気味に示しているようだ。

枝豆ギョウザ、もはやこれは日本料理なのか?という気はするが、ちゃんと焼きギョウザなのが日本食として正しい。色も緑で楽しい。


店の料理は、はっきり言って高い。昨日まで食べていた、アンガス肉塊塩焼きとか、山盛りバター浸し海老とか、そういうものに比べたら。これは明らかに、高級店だ。皆、デートで来ている、家族を連れてきている、ここ一番な、そんな感じの客層である。

熱燗、というメニューがあって、いったい元の酒が何かよく分からないが、ビンテージのワインを味わうかのように、オッサンが誇らしげに飲んでいたのが印象的だった。

鮨は普通に美味しかったし、カニカマの握り具合も良かった。テキサスの一角で、日本食頑張ってる。誇らしい夜だった。