蝉をひっくり返す季節

今年も蝉をひっくり返す時期がやって来た。僕は一般的な人に比べると、道路とか生け垣とか、その辺りで異変があるとよく気がつくタイプだと思う。駅前の交差点、今日もやっぱり交番の前あたりでうねうね手を振っている。

そう、蝉だ。背広姿で地面に屈むのは少し勇気がいるが、やってみると他人はそれ程気にしない。さて、一旦ひっくり返してみたが、飛ぶ気配は無い。下を見ないで歩く人間に踏みつけられるのは時間の問題。自然に、拾い上げていた。


手に捕まる力は十分だけれど、だいぶ弱っている。この暑さも堪えているのだろう。川沿いの木を探す、しかし風は強く、樹皮は固くすべすべしている。そのまま、公園まで歩いて行くことにした。

今夜も暑い。ひっきりなしに手の中でもぞもぞ動いている。手の中は、もっと暑いのかもしれない。手のひらを出て登りたいのに任せておく。すれ違う人は、誰も僕の手にたかる蝉には気がつかない。だれも、そんな事は予想していないからだ。

公園、犬を散歩する人々、園内は思ったよりも薄暗い。8時前ぐらい。街灯のそばに、ひときは大きな樹があった。これがいい。ガサガサした樹皮にたからせると、ゆっくり登っていく。ちょうどその先に、蝉の抜け殻があった。それがあるなら、蝉が好む樹液がでるに違いない。もっとも、それを吸うだけの体力はもうないかもしれない。


蝉は何故、高みを目指して登っていくのだろう。体を起こす力も、飛ぶ力も無いのに、なんで登っていくのだろう。こんなことをするのは、間違いなく人間のエゴだ。駅前の地面に住む蟻たちの夕食を、僕はダメにしてしまったのかもしれない。でもまあ、積極的に介入していこうと思う。何にも関わらないで生きていくことは、結局は出来ないのだ。

日本人専用ガイドで行くJSAツアー

Photo: "The 38th Parallel."

Photo: “The 38th Parallel.” 2016. South Korea, Richo GR.

今をときめく板門店を訪れることができる、通称「JSA ツアー」もいよいよ大詰め。早朝に集合させられて、洞窟の中を這い回り、監視台からはるか北の領土を眺め、板門店で命の保証は求めない書類に署名し、もうお腹いっぱいだ。JSA から延々と漢江沿いに下って、やっとソウル市街に戻ってきた。

さて、このツアーでは英語客と日本語客が同じバスに乗っていて、ガイドがそれぞれ別についている。両方聞いていると、どうも喋っている内容が全然違う。英語版は比較的スタンダードな観光案内。日本語版の方は相当フリーダムで、息子が徴兵された時の話なんかもしている。

JSA 入境時の諸注意についての説明も、ちょっとディテールが違う気がして気になったが、そこはケンチャンナヨ。


ツアーの最後を、英語ガイドは、「いろいろ不便な事もあったと思うけれど、他に無い体験だったよね。んで、もうすぐ朝集合したホテルに着くけど、ここは市の中心街だからいろんな所に遊びに行けるよ!夜遊びに繰り出したい人達にオススメなのは、、。」と至って軽い感じでまとめた。

で、その夜遊び情報を日本語訳してくれるのかと思ったら、日本語ガイドは「この半島では、多くの家族が引き裂かれて暮らしています。その祖国統一の思いを、皆さんも日本に帰ったら思い起こして、、」とまぁ、全然内容が違う重苦しい100%予想できた展開の締めくくりがセットになっている所までが、このツアーのハイライト。

ロシア人にとって、一杯は少ない

Photo: "Square of the Fighters for Soviet Power in the Far East. / Площадь Борцам за власть Советов на Дальнем Востоке."

Photo: “Square of the Fighters for Soviet Power in the Far East. / Площадь Борцам за власть Советов на Дальнем Востоке.” 2017. Vladivostok, Russia, Fujifilm X-Pro2, Fujifilm M Mount Adaptor + Carl Zeiss Biogon T*2,8/28 ZM, ACROS+Ye filter

「ロシア人にとって、一杯は少ない
二杯は多い。だから、三杯だ。」

Discovery channel でやっていた番組で、ロシアのウォッカメーカーの研究員が言っていた。
わけが分からない。

そうして、ドロドロになるまで凍らせたウォッカで乾杯。三杯どころではない、四杯も五杯も飲み続けるのだ。
わけが分からない。

その答えは、ロシアに行けば分かるだろうか。


結論としては、分からなかった。だって、誰もウォッカなんて飲んでないのだ。地元ではちょっと有名らしいホテルの、この広いレストランで、そんなものを飲んでいるのは僕だけだった。もっと、ロシアな居酒屋を目指すべきだったのか。あるいは、凍える厳冬期に来るべきだったのか。

答えは、持ち越しだ。一杯は少ないかというえば、まあ、それで十分な感じだった。