フォトエッセイの記事一覧(全 320件)

9.11後の世界、ここは

Photo: Mar., 2001. Yoyogi, Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/35, Kodak Ektachrome DYNA 400, Dimage Scan Elite(Digital ICE)
Photo: Mar., 2001. Yoyogi, Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/35, Kodak Ektachrome DYNA 400, Dimage Scan Elite(Digital ICE)

9月 11日のテロから半年、ケーブルテレビのニュースチャンネルは、追悼式の模様をこぞって中継していた。テレビの中で、光のモニュメントが空に向かって伸 び、花束と、そして無数の星条旗が掲げられていた。亡くなった人たちへの哀悼と、アメリカは負けない、というメッセージが繰り返されていた。

僕は、その放送に強い違和感を覚えた。死者を悼む気持ちと、愛国心とがすりかえられている。個人的な感情が、故意に拡大され、誇張され、欺瞞に満ちたコンセンサスをつくっている。僕は、とてもいやなものを見た気分になった。


この時点で、アフガニスタンに対する空襲で亡くなった人の数は、アメリカの同時多発テロで亡くなった人の数を、とっくに超えていた。そして彼らは、 まだ殺し続けている。人を殺すことが、何かの問題解決になると考えているならば、そのメンタリティーは、テロリストのそれと変わらない。第一、今はテロリ ストと呼ばれているアフガニスタンのゲリラ達に、武器を買い与えたのは、当のアメリカではなかったのか。

2002年、輝かしい 21世紀への入り口は、未だどんよりと閉ざされたままだ。世紀末に世界が滅ぶことはなかったけれど、新しい世紀は、目もくらむ未来の世界ではなかった。すべては、延長であり、繰り返しであり、もしかしたら衰退なのかもしれなかった。


テレビから目を移すと、東京の空に雲が流れている。世界は、あまり変わりばえしないように見えた。ここは、ゆっくりと死んでいく場所なのか、あるいは、希望があるのだろうか?

Photo: Mar., 2001. Yoyogi, Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss Sonnar T* 2.8/35, Kodak Ektachrome DYNA 400, Dimage Scan Elite(Digital ICE)

すり減るのが恐い

Photo: 2001. Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/35, Knodak Ektachrome DYNA 200, Dimage Scan Elite(Digital ICE)
Photo: 2001. Tokyo, Japan, CONTAX T3 Carl Zeiss T* Sonnar 2.8/35, Knodak Ektachrome DYNA 200, Dimage Scan Elite(Digital ICE)

「感性がすり減るのが恐い。自分が、何も感じなくなっていくことが恐い、、。」

その日、僕はいくらか酔っていて、安居酒屋のラミネートされたメニューを眺めながら、そんなことを言っていた。


このページに、何度も書いていることだけれど、人は慣れる。どんな辛いことも、どんな楽しいことも、どんな新しいことも、やがて慣れる。仕事も、生活も、だんだん慣れてくる。いろんな事は殻に覆われて、辛くもなく、楽しくもなく、なんでもなくなってしまう。

あるいは、人には、何かが出来る季節、みたいなものがある。少し前まで、そういう季節が失われるなんてことは、想像することもできなかった。でも今は、自分にひらめきみたいなものが失われ、日常に埋没して、なんとなく生きていってしまうのが、恐い。

信号機が、パッと赤に変わるように。あるいは蛇口から最後の一滴が落ちてしまうように。ある日、全ては、手の届かない記憶になってしまうんじゃないか。


いろんな痛い思いをするのは嫌だけど、何も感じないのは、もっと嫌だ。僕には変わりたい部分もたくさんあるけれど、変わりたくない部分もある。時間が、無情にそれを奪ってしまうことが恐い。

昔は、大人になるまでの年月を数えていたけれど、今は、残された人生の年月を数えている。そんな転換があって、こんなことを考えるのかもしれない。


いずれにしても、その居酒屋で蛸山葵をつつきながら口をついて出た不安は、未だに僕をとらえている。あるいは、その不安すら、失う日が来るのかもしれないのだが。

注:ラミネート【laminate】合板にすること。また、プラスチック‐フィルム・アルミ箔・紙などを重ねて貼り合せること。「―‐チューブ」[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

アイリッシュパブの酒樽

Photo: 2002. Tokyo, Japan, Canon Power Shot G1 2.0-2.5/7-21(34-102), JPEG.
Photo: 2002. Tokyo, Japan, Canon Power Shot G1 2.0-2.5/7-21(34-102), JPEG.

午前 3時、仕事は終わった。帰るのはあきらめた。

この時間から、美味しい酒を出す店は少ない。ということで、馴染みのアイリッシュパブへ。店に着くと、週末と言うこともあって、なかなか盛況。いつ ものメンバーで樽テーブルに陣取り、まずはギネスを 1パイント。この店のギネスはウマイ。心地よい甘さと、冷たいのどごし。飲み終わっても、グラスには綺麗な泡が残っているのが良い。


ここ暫くアイルランドをふらふらしてきたらしい店主、そういえば最近顔を見なかった。それでも、留守の間に僕らが来ていたことはちゃんと把握してい る。なんでも、「注文したもので、いらっしゃった事が分かりました」だそうだ。多分、伝票の記録か何かだろう、それが注文主を雄弁に語るらしい。

しかし、それって注文がワンパターンってこと?偏食ってこと?それとも、スタイル?まあ、いいか。

じゃあ、2杯目はいつものようにストロングボウで。(←ワンパターン)


注1:ストロングボウ – 林檎の発泡酒。キリッとした飲み口だが、気が付くと足に来ている危ない飲み物。
注2:お酒は 20歳を過ぎてから。