「天皇陛下、バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ」

「天皇陛下、バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ」

いわゆる、ホンモノの万歳三唱を実際に聞いたのは、初めてだった。集団の中の個としての高揚感。小学校の運動会の歓声、あえて言えば、それが一番近い。

この高揚に包まれて、流されないで居るのは、とても難しい。それが、率直な感想だ。

バンザイなんて、記録フィルムの中でしか見たことが無い。それが突然、目の前に現れたことに、僕はびっくりしていた。もちろん、自分は一般参賀に来ているであって、ここはそういう場所なのだが。


一般参賀の行き方は、実に当たり前のことかもしれないが、宮内庁の Webサイトに書いてある。天皇誕生日と新年の年2回。いずれも予約は不要、自分が行きたい時間を選んで、ただ行くだけ。最寄り駅は東京メトロ 二重橋前。そう、もちろん二重橋だ。いつもタクシーで通り過ぎるだけの皇居の前に、今日は地下から階段を上がっていく。変な気分だ。

日の丸の旗は、歩いていれば誰かがくれる、と思ったらもらいそびれた。テレビで見る限り、あれだけ人々が振っている旗なのだから、組織的に配られていると思ったのだが、どうもタイミングを逃したようだ。


二重橋の前の広場に、仮設の手荷物検査場が展開してる。システマティック。手ぶらでボディーチェックを受ける。ここに来ている人は、特にどんな感じ、というのでは無い。祝日のデパート、と言っても別に違和感は無い。右翼でも左翼でもなく、普通、とっても普通。

そのまま、ぞろぞろと宮殿に向かって歩いて行く。よく見ると、それっぽい団体の方々は、巧みに警備が誘導して、周辺部に集めているように見える。

バンザーイ、自体は数分の出来事だ。実は、その後、皇居東御苑を散策したり、おみやげを買ったりする事ができる。そういえば、冬の澄んだ広い空も、思い切り眺められる。東京のど真ん中に、広い広い、空が広がっている。

笑ってはいけない

笑ってはいけない、を見ている。もう、最近のは笑ってはいけない前に、笑えないけれど、豆絞り隊だけは見なくてはいけない。

少し前。すき焼きをつつきながら、シンガポール人と話していた。

「お前は、Japanese comic showを知っているか?」

と訊かれる。なんの事だろう?日本の有名なテレビというが、そんな名前の番組、知らない。


「Don’t laughだ」

ん?んん?それはもしかして、

「笑ってはいけない」

の事だろうか。笑うと、バットで殴られるやつ。そう、それか。そういうジャンルの番組って、ものすごく日本オリジナルらしい。あの笑いが分かるのか。でもって、Youは肉を生卵にからめて食べられるのか。

外国人と親しくなるのが、だいぶ苦手だったが、彼とはその後、けっこう仲良くなった。

砂漠の中のサターンロケット

Saturn V S-IVB
Photo: “Saturn V S-IVB” 2011. TX, U.S., Ricoh GR DIGITAL III, GR LENS F1.9/28.

サターンロケット。月に人類を運んだロケット。

開発者チームを率いたのは、あのV2ロケットを作ったウェルナー・フォン・ブラウン。

計画は道半ばで中止され、打ち上げられることのなかった機体が、NASAの巨大な倉庫に展示されている。まったく馬鹿馬鹿しい大きさ。背伸びして、その切り離し部分を覗きこむことができた。


中身は、メカメカしい。ボードコンピュータと、見たことのない規格のレセプタ。職人技の無数の配線。当時の技術の粋が結集されたのだな、と一目で分かる。この配線の塊が、人間を月まで運んだのか。

打ち捨てられたメカは、厚い埃をかぶっている。年月に凝り固まり、ラバーは劣化している。だが、もし電気を入れたら、眠りから覚めて動き出すかもしれない。そんなリアリティーが漂っていた。


国家の威信をかけたプロジェクトの成果は、今は砂漠の中の倉庫で眠っている。地上で飢える人を尻目に、ロケットを打ち上げる愚かさを、あるいは思うかもしれない。だが、埃をかぶって目前にあるこの機械には、この国が世界の覇権に向けて突き進んだ時代の空気が、まだ残っているように思えた。


本当は打ち上げられて、大気圏で燃え尽きる運命だった機械だ。

予算は確保されず、計画は道半ばでキャンセルされ、ロケットはここに有る。